おいしくて懐かしくて、ちょっと切ないおふくろの味|ゴニョ研

2017年10月15日笑える小話と家族のエッセイ

こんにちは ゴニョゴニョ研究室のガッツかよめです。

おふくろの味って、母親とのほろ苦いエピソードも一緒に思い出されて、ちょっとしんみりしますよね。結婚や独立で母親から遠くなるほど懐かしいもの。今回はガッツの「おふくろの味」について書きます。

皆さん、それぞれのおふくろの味を思い出しながら読んでいただければ幸いです。

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お母さんは、みんな食べさせ好き

「かよちゃん、お昼ごはん、なんか作っておくから食べにおいで」

母は80代になってからも、私が仕事の休みの日に電話すると、よくそう言って一人暮らしの家に招いてくれた。母のところで食べるものは、あり合わせだったが、いつも美味しかった。

母は自分が作った料理を家族が美味しそうに食べるのが、何より好きだった。昔から、特に変わったものを作ったという時でなくても

「これ、美味しい? 味どう?」と、私や姉が口に入れる前から盛んに尋ね、

「まだ食べてないから」と、冷たくあしらわれていた。

母はおっちょこちょいでズボラな性格で、料理でも量を測ったり段取りを整えたりすることはしない人だった。いつも行き当たりばったりで、「やだ、あれ入れるの忘れた」とか、「あ、入れすぎた」とか、そんなことを繰り返しながら作るのだが、「まあ、いいか、何とかなる」と出来上がった料理は、いつも不思議と美味しいものばかりだった。

おばあちゃんの孫への「もっと食べろ」攻撃に要注意

孫ができてからは、料理好きに拍車がかかった。結婚した私は母のすぐ近くに住んでいた。私の娘が小学低学年のころ、母が家族4人のために作った稲荷ずしを、私の娘が全部食べてしまった。聞くと、20個!!

「みっちゃんたら、ぜーんぶ1人で食べちゃったから本当にびっくりした。」

と知らない間の出来事のように言っていたが、母が「もっと食べて」とあおっていたに違いない。その証拠に、娘は母の家で放課後を過ごすようになってから、それはそれは太ったのだ。

小学校低学年の時、娘はむしろやせ過ぎだった。

中学入学前に制服を作ってもらいに行った時のこと。

「はい、お姉ちゃん、今度ウエストね」

メジャーをぐるりと娘の胴に回した途端、その中年の女性は声をあげた。

「あら!まあ!」

思いがけず胴回りが巨大で、思わず声をあげてしまったようだ。

母のお稲荷さんは、家族全員にとって「一番おいしいもの」の座に堂々鎮座し続けている。私の大事な「おふくろの味」である。出汁がよくきいた甘辛味で煮た油揚げ、少し酸っぱめの酢飯の中には、干椎茸としらす干しが入っていた。

母の性格どおり、ゆるっとした包み具合で、気を付けて食べないと御飯がこぼれてしまう。旨味がたっぷりでコクがあるのにあっさりしていて、いくつでも食べられた。私の友達が家に遊びに来た時も、母にお稲荷さんをおねだりしたほどだ。

ドキッ!料理好きなお母さんが料理を作れなくなった!

そんな母が数年前、料理を作れなくなった。うつ病だった。さみしいと繰り返していた母を、放っておいた私のせいだと自分を責めたが、泣いてなどいられない。私は仕事の合間を縫って、娘と交代で母の家へ通ったが、どうしても母一人の時間が長い。

そこで、介護保険を利用してヘルパーさんに母の食事を作ってもらうことにした。ヘルパーさんは皆、母はしっかり者で優しいとほめてくださり、母もヘルパーさんとのおしゃべりを楽しみにしていた。2年ほどして、母はまた何とか元気になり、私を食事に呼んでくれるようになった。

お母さんの復活に、みんな大喜び

「こんなものしかないけど、いいよね?」と、エプロンをかけた母が台所で嬉しそうに言った。冷蔵庫の中の材料だけで、とても美味しい料理を作る母が戻っていた。

「ねえお母さん、またお稲荷さん作ってよね」

「そうだねえ、みっちゃんが大好きだしね」

「お母さんの稲荷、作り方教えてよね」

「そんなの簡単。今度一緒に作ればいいよ」

母とそんな話ができるようになり、私たち家族はみなとても喜んだ。

ガッツ、おふくろの味に挑戦

母は亡くなってしまったけれど、母の稲荷を娘と一緒に作ってみようと思う。

私も料理好きだけど母譲りのおっちょこちょい。きっと「あっ、入れすぎた」、「うわっ、これ醤油じゃなくてソースだった」とか、とんでもないことが起こりそうだ。現に、私は高級な鰹節で丹念に取った出汁を三角コーナーに流し込んだ経験がある。

私達が稲荷ずしを作るところを、母は天国で見ていてくれるだろうか。

「やだ、かよちゃん、それがねえ、道に迷っちゃったのよお。天国どっちかなあ? お稲荷さん?そんなの今見てられないわ。もう困っちゃった。ちょっと、おまわりさんに聞いてくるわね。」

おっちょこちょいなんだから…。

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