笑って夫婦関係改善!ダーリンは妖怪(4) 非暴力抵抗運動

2017年12月24日笑える小話と家族のエッセイ

こんにちは ゴニョゴニョ研究室のガッツかよめです。

以前、ダーリンが妖怪手洗いであるというお話をしたら、これが意外に好評! 豚もおだてりゃ木に登るというわけで、なんと4回目! 今回は、妖怪と女房の夫婦喧嘩の話。そのたびに、妖怪が繰り広げる、不服従・非暴力抵抗運動についてのお話です。ダーリンが「妖怪」であることの詳細についてはぜひともこちらをご覧ください。

仲良し夫婦の秘訣は笑い!ダーリンは妖怪?!(1) 妖怪手洗い出現

弱い立場の人に心を寄せる人道的思想の持ち主、妖怪

妖怪の職場は従業員60人ほどの超弱小零細企業であるが、そのうち30人ほどは、いわゆる障がいを持った人である。妖怪が入社した時、つまり30年ほど前から、障がいを持った人が何人か働いていたが、彼らの労働環境や雇用条件は未整備で、彼ら以外の従業員や雇用者の、彼らの障がいに対する理解も不十分であった。

妖怪は、彼らの受け入れ体制を整え、保護者や教育関係者や、彼らが暮らす施設の職員などとの連携を強めるために尽力し、また、共に働く人が彼らの障がいを理解し彼らとの接し方を学ぶべきだと主張した。彼らのほとんどは、運動機能の障害はないか軽度であり、認知機能の発達障害や広汎性発達障害(昔は自閉症と言われていた障がい)の人たちで、日常的な会話がある程度可能だが、記憶や判断などは、ちょっと問題がある。

たとえば、女房も面識のあるA君と妖怪とのある朝の会話はこんな風だ。

A君「妖怪さん、奥さん元気? 奥さん変わった顔してるよね~」
妖怪「そうだな、だいぶ変わってるよな(失礼な! by 女房)」
A君「このごろ、僕、奥さんに会ってないな」
妖怪「俺も、このごろ会ってないんだわ(うっそ~ by 女房)」
A君「へえ、会ってないんだ。でも会うとおかしくなっちゃうもんね」
妖怪(笑いをこらえながら)「そうなんだよ!! 会うとおかしくなっちゃうからな」

A君は決して冗談を言っているわけではない。大真面目だ。

(えっ? それで変わった顔ってどういうこと?! by 女房)

こんな笑い話は、彼らの記憶力の低下や現状認識能力の低下、上司に向かって言って良いことと悪いことの判断能力の低下、などからきているものだ。

彼らの障がいの種類や重症度はさまざまで、たとえばB君は、ものの位置関係の記憶が非常に良くて、さらにそれに固執する障害を持っているため、通勤途中にある全く知らないお宅のお庭に侵入して、持ち主が模様替えのために移動した植木鉢を昨日の位置に戻してしまったりする。

C君は満腹中枢が機能しないために、どれだけ食べても空腹だ。女房は、妖怪の会社の創立記念パーティーで彼と隣の席になった。

彼は女房の目の前に料理の皿が届くたびに
「これ、いいですか?」
と言ってニコニコと女房の料理を手に取り、自分の分も含めて見事にすべてを一人で平らげていた。

C君は怒りの衝動が抑えられないところもあり、健康診断での胸部X線撮影中にレントゲン技師に
「息を吸って、はい、しっかり止めて」
と言われて、
「俺に命令してきた」
と激怒し、技師を殴ってしまった。

そんなトラブルのたび、妖怪は本人に事情を聴き、関係各所に謝罪に行き、親御さんと話をした。先方の都合に合わせて予定を組むため、勤務時間など全く関係なく、あちらに行って頭を下げ、こちらで涙する人の肩を抱き、そしてある時は彼らを擁護して熱弁をふるっていた。

彼らの親御さんもまた、いろいろな悩みを抱えておられる方が多かった。

どうしても話を聴いてほしいと妖怪に電話が入り、お宅に伺って何時間も話を聞くというようなことも、しばしばだった。

「人生で恥ずかしいことベスト5」に入る、ある出来事 とは?

このように妖怪は、弱い立場の人たちに常に心を寄せる、非常に崇高な人格者なのであるが、たった一つの欠点は、同じように、長い歴史の中で弱い立場に立たされてきた女性という性を持つ女房に対して、今一つ配慮が足りないことであった。この際、妖怪の家庭で女房が弱い立場であったかどうかは、置いておこう。飽くまで一般論が大切である。また、妖怪が女房に対して配慮が足りない点は具体的にどんな点であったかということは、あまり思い出せない女房であるが、とにかく、そういうことがあったのである。

そのため、常日頃は非常に我慢強く、常に奥ゆかしく妖怪を立て、陰になり陰になり、妖怪第一に大切に接している女房でも、ついつい、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、いらっとしてしまうことがあるのである。

昔、何が原因だったか忘れてしまったが、些細なことで女房と妖怪がにらみ合いになったことがある。にらみ合っているだけなら良かったのだが、それはかなり派手な言い争いになり、修復不可能かと思われるほどのひどい事態になった。

娘はまだ、5歳くらい。かわいそうに泣きじゃくりながら、それでも一生懸命に何とかしようと、隣のお宅に助けを求めた。おそらく娘は、お隣に行っても泣きじゃくるだけで言葉にならず、ご主人は何事かと驚き心配して、我が家に来てくださったのだろう。

血相を変えて入ってきたご主人は、殺気立ってにらみ合う妖怪と女房を見て
「ああ、失礼しました」
とバツが悪そうに帰って行かれた。

間違いなく人生で恥ずかしい出来事ベスト5に入る失態である。日ごろからお世話になっている心優しい隣の御主人に、本当に申し訳ないことをしてしまった。翌日、果物を持って隣にお詫びに伺うと、50代前半と思しきご主人は
「いやあ、うらやましいですよ。私たちはね、もうそんな情熱はないですよ」
と笑ってくださった。

なんと紳士的…!! 彼の穏やか過ぎるほほえみを見ながら、優しそうな奥様と聡明そうな娘さんのお顔を思い出し、幼くガサツで品がなさすぎるわが身を呪った。

ボタンが吹っ飛び扇風機が壊れる!しれつを極める夫婦喧嘩

考えてみると、この時に限らず、妖怪と女房のけんかは常にしれつを極めた。

新婚の頃は、エレベーターのない小さなアパートに住んでいた。激しい夫婦喧嘩の末に、家から出て行こうとする妖怪を追って
「逃げる気かっ!!」
と叫びながら女房はアパートの階段を裸足で追いかけたこともある。

女房が妖怪の胸ぐらをつかんで、シャツのボタンを吹っ飛ばしてしまったこともある。

きっと、妖怪は女房にあまりにもひどい仕打ちをしたのである。それでなければ普段しとやかな女房がそんなことをするわけがない。残念ながら、それが具体的にどのような仕打ちだったのか全く覚えていないが…。

しかし、妖怪も負けてはいなかった。女房は、結婚して10年目くらいに、生まれて初めて「怒りにまかせて物を壊す人」をつぶさに見た。

それは、もちろん妖怪で、夫婦喧嘩の最中だったのだが、目の前にあった扇風機の脚の部分の端と端をつかみ、枝を折るように左右から中心に力をかけて、2つに折った。そして、今度は、「ううおおおっ」とうめきながら鬼のような形相になり扇風機の羽を肉でも引きちぎるかのように左右逆方向にねじって引っ張り、バリバリにした。まあ、安物の扇風機だったから壊れやすかったかもしれない。続けて、妖怪は皿を床にたたきつけて割った。女房は、それはコレール(割れにくい食器の商品名)だから高い、それに掃除はどうするのだ、と詰め寄った。

すると妖怪は、壊れて床に散らばった扇風機をていねいにかき集めてしっかりと袋に入れ、皿を割る前よりもきれいに部屋を掃除をし、コレールの皿を買ってきて、丁寧に洗って戸棚にしまってから、力尽きて床に倒れるように寝てしまった。

ガンジーを心から尊敬する妖怪が繰り広げる非暴力抵抗運動

しかし、そのような妖怪の破壊的な行動はその時をピークに影をひそめ、それ以降、妖怪の行動は新たな方向への転回が図られた。それは、けんかをすると、家を離れ会社に行き、車の中で寝たり、家の中にいても女房と一緒の布団で寝ることはなく、そして家に戻っても絶対に食事を食べない、というものであった。これは女房には、扇風機を壊すより皿を割るより、ずっと大きなダメージを与えるものであった。

ちょっと話は変わるが、妖怪は昔見た映画、「ガンジー」に深い感銘を受け、以来、ガンジーを非常に尊敬していた。ガンジーはインドのイギリスからの独立運動をけん引し、インド独立の父ともいわれている。偉大な指導者として世界中の人々から尊敬を集める宗教家で弁護士であり、彼の誕生日、10月2日は、国際非暴力デーに制定されている。

映画で描かれるのは、ガンジーが政府から弾圧を受けながらも差別撤廃運動の指導者として、インド人の復権を勝ち取る姿だ。イギリス領南アフリカで法廷弁護士として働いていた彼は、南アフリカの人種差別政策のもと、1等車から荷物もろとも引きずりおろされる。この差別体験をきっかけに彼は抗議活動を開始し、人種差別を体制化する政権と戦い、繰り返し逮捕されながらも不屈の精神で勝利を勝ち取る。さらにガンジーの運動は南アフリカのみにとどまらず祖国インドの独立運動へと発展していく。その不屈の精神の根幹をなし、実際抗議行動としても大きな実績を残したのが、ヒンズー教の教えに基づいた、禁欲、断食、清貧、純潔の実践であり、不服従・非暴力抵抗運動である。

そうなのだ。女房はやっと気づいた。妖怪の人道的な視点や弱い者に心を寄せる気高い精神は、妖怪の人格形成におけるガンジーの影響を大きさを物語っている。妖怪の夫婦喧嘩における行動は、ガンジーに憧れる妖怪の、不服従・非暴力の抵抗運動であったのだ。

女房がいくら言っても言うことをきかないのは不服従であり、
女房と床を分かつのは禁欲・純潔であり、
食事をしないのは断食であり、
車で寝るのは清貧であったのだ。
すべて納得がいくではないか。

非暴力抵抗運動の結果と夫婦関係の行方は?

しかし、妖怪の抵抗運動は持続しない。妖怪が女房の弾圧に耐えられるのは2日程度であった。また全く賛同者を得ることができない単独行動であったために、当初は女房にとって大きなダメージではあったものの、慣れれば完全に行動パターンを把握できたし、女房にとって対処は容易であった。そもそもガンジーの運動の目的はインドの独立という極めて大きく、歴史的に重要なものであったが、妖怪の目的は、妖怪自身の、家庭内の、もっというと女房との関係における待遇改善というきわめて利己的な矮小なものであったために、誰からも注目されなかった。

また運動の継続によりガンジーは、ガリガリに痩せてしまったが、運動の中断により妖怪のポンポンはパンパンである。妖怪には抗議運動としての断食ではなく、メタボ撲滅運動としての断食が喫緊の重要課題である。

また、近年は、しれつを極める夫婦喧嘩そのものが、ほとんど見られなくなってしまった。年月を重ね夫婦がわかりあうようになったとか、あるいはお互いに人格が丸くなったとかいうことではなく、考えられる原因はただひとつ、普段から物忘れの激しい女房のさらなる記憶力の低下だ。

要は、女房は腹がたってもすぐに忘れてしまったり、何に怒っているかわからなくなってしまうのだ。

結果的には、我が家は、妖怪の不服従・非暴力運動の失敗を経て、女房の記憶力の低下によって平和が確立されているという状態である。

あれっ?! 間違い間違い!!

そう、こっちです。

と、いうわけで、結果的にはめでたしめでたしである。

最後まで読んでいただきありがとうございました。これからも、女房は、完璧な妖怪の、たった一つの欠点を、順次お伝えしていこうと思っております。

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