高齢の親が言うこと聞かない原因は難聴? 認知症? その点検法と対策|ゴニョ研
高齢の親とのコミュニケーションって、本当に難しいですよね。
私は10年以上、病院で言語聴覚士として、何百人もの高齢の患者さんと関わってきました。
言語の障害や、聞こえの障害など、要するにコミュニケーションのリハビリは、言語聴覚士の仕事です。
時には、認知症の検査や、認知症の方のご家族への助言なども、医師とともに行っていました。
コミュニケーションの専門家のはずの私ですが、夫の父母、私の母、と3人の高齢者とのコミュニケーションに、いつも悩んでいました。
身体のこと、生活のことなど、いろいろ助言しても、なかなか受け入れられないことが多かったんです。
いつも、
「こんなに心配してるのに、どうして私の言うことを聞いてくれないの?」
と、思っていました。
今考えると、自分がどんなに間違っていたか、よくわかります。
私の父母はみんな亡くなってしまったので、もう後の祭ですが、私の体験や言語聴覚士としての知識が、今悩んでいる皆さんのお役に立つかもしれません。
そうであれば、父母たちも喜んでくれるかもと思い、書いてみることにしました。
親がいうことを聞いてくれない原因! 実はこれじゃないのか?
ひょっとして聞こえにくいから?
私は今50代後半なんですが、本当に耳が遠くなったなと思います。
夫の話なんて、聞き取れなかったときでも、適当に「そうだよね〜」とか「大変だねえ」とか言っています。
それもそのはず、男性では、50代後半でも15%程度、70代後半ではなんと70%程度の人が老人性難聴なんですね。
内田 育恵ら、「全国高齢難聴者数推計と 10 年後の年齢別難聴発症率―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より」、日本老年医学会雑誌,2012年49巻2号、pp222―227
私の母も難聴で、テレビの音をかなり大きくしていました。
電話の声は特に聞こえにくいようで、電話で母と話すときは、いつも苦労していました。
老人性難聴では、サ行、カ行など高い周波数の音が特に聞き取りづらくなり、子音が聞き分けにくくなります。
私はちゃんと大きい声で話しているから聞こえているはずだと思うあなた、それが、そうでもないんですよ。
これは、老人性難聴の「語音弁別検査」の結果を表すグラフの一例です。
語音弁別検査とは、「し」「ち」「き」などあらかじめ録音されている言葉を聞いて、どれだけ正確に聞き取れたかの正答率を求める言葉の聞き取りテストです。
聴力正常者では言葉の音の大きさを上げていけば,100%正確に言葉を聞き取ることができるが,老人性難聴者ではいくら音圧を上げても正解率が 100% に到達しない.
また,音を大きくし過ぎるとかえって正解率が低下するという特徴もある.
増田 正次,「高齢者の難聴」、日本老年医学会雑誌,2014年,51巻1号,pp1―10(グラフ、文とも)
つまり、どんなに声を大きくしても、聞き取れない場合もあるということなんです。
そしてまた、老人性難聴には、大きな音が若い人以上にうるさく感じられてしまう症状もあるんですね。
そうなんです。
私はかなり声が大きいほうで、母によく怒鳴るなと叱られていました。
「うんうん、わかったわかった、もうわかったから」
母のこんな返事を信じたのに、実は全く聞こえていなかった、なんてこともありました。
ひょっとして理解できていない? 忘れてしまう?
なんと、65歳以上の約28%が認知症か認知症の予備軍だといわれています。
年齢層が高くなるにつれ、この割合は増加し、80歳以上に限れば2人に1人が認知症かその予備軍であるという結果が出ているのです。
朝田隆ら,「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」、認知症対策総合研究事業,2013年、pp8―9(研究結果の資料より筆者が抜粋し要約)
短時間の日常会話がある程度できているような方でも、認知症の可能性は十分あります。
私が病院で働いていたとき、高齢の一人暮らしの方が入院しました。
どう考えても、かなりの認知症。
ところが飛んできた子どもさんが、親御さんが認知症だとは全く思ってらっしゃらない。
こんなケースは、本当にたくさんありました。
私たちは日々の暮らしに忙しく、じっくり親と付き合うのは本当に難しいですよね。
でも、ぜひ気をつけて親御さんの生活の様子を観察し、お話を聞いてください。
電話で話すだけでなく、おうちに行って冷蔵庫の中を見たり、金銭管理ができているかなどを、それとなくチェックしてみてください。
それが大きな事故や災難を防ぐことにもなるのです。
少しでも「あれ?」と思ったら、なるべく早く本格的に情報を集めてください。
頑固者? 難聴も認知症も疑われないなら?
高齢者は自信家!
ここに、おもしろい研究結果があります。
健康で記憶力に明らかな問題がない高齢者と大学生とを被験者に、自分の記憶にどの程度自信があるかの調査と、単語を覚える記憶検査とを行ったんです。
そうしたら、なんと、『「記憶に対する自信」において、大学生よりも高齢者の評定の方が優位に高いことが明らかになった』んです。
かつ、「記憶成績に自信があると評価した高齢者ほど記憶成績が低かった」のです。
河野理恵,「高齢者のメタ記憶―特性の解明,および記憶成績との関係―」,教育心理学研究,1999,47,pp421―431より
この結果をすぐに一般化することはできませんが、高齢者は意外と自分の能力に自信を持っていて、厄介なことに能力の低い人ほど自信があるようです。
だから、客観的に見て不十分に思えても、本人はそれが問題だとは思っていないこともあるのです。
老いても子には従えない
高齢の親がいうことを聞いてくれないのは、もちろん、親という立場の問題も大きいでしょう。
子どもが成長し自立しても、親にとっては「子どもは子ども」。
親は、「老いては子に従え」とはなかなか思えないものです。
親がいうことを聞いてくれない場合の対策! どうしたら問題を解決できる?
いうことを聞いてくれない原因がわかったら、では、どうしたらいいのでしょうか?
難聴が疑われるとき
補聴器さえつければ即解決ではない
「難聴なら、耳鼻科で聴力検査をして補聴器をつければいい」。
ところが、そう簡単ではないんです。
確かに、できれば補聴器を装着した方がいいでしょう。
でも、先ほども触れたように、補聴器で音が大きくなれば、それでなんでも聞こえるというわけではありません。
また、きちんと検査をし、その人に合った補聴器を作っても、補聴器で聴く訓練をしないと、使いこなせないのです。
装着時間をだんだん長くする、補聴器で聞く機会をだんだん多くするなどの工夫も必要です。
補聴器をつけるのは嫌だという方も多くいます。
補聴器を通して聞く音は、これまで聞いてきた音とは異なるので、不快感を持つ方もいるようです。
無理強いはせず、伝わりやすい話し方で解決しましょう。
伝わりやすい話し方でコミュニケーションを
伝わりやすい話し方とは、こんな感じです。
- 静かな環境で近くに寄って話す
- ゆっくり、はっきり、短く
- 視覚的手段を積極的に利用
- 大事な話は、まず最初に何の話かを伝える
1.静かな環境で近くに寄って話す
口の動きがよく見えるような位置で話しましょう。
話を理解するとき、表情や口の動きは大事な要素です。
これらの情報を得られないから、電話は理解しにくいんですね。
昔、難聴どうしのご夫婦が、「全然話が伝わらない、聞き返してばかりでケンカが絶えない」と困っておられました。
話をよく聞いてみたら、ご主人はリビングでテレビを見ながら、奥様は台所で料理をしながら話をされていると。
こんな状況では、難聴ではない人だって、聞き取りづらいに決まっています。
ぜひ、表情や口の動きがよく見える位置で、かつ静かな環境を確保して、おしゃべりしてください。
2.ゆっくり、はっきり、短く
一文はなるべく短く、ややゆっくりした速度で、はっきりと話します。
3.視覚的手段を積極的に利用
文字や絵、写真、地図、カレンダーなどを積極的に利用しましょう。
伝えたいことのキーワードを書きながら話すのも、大変有効な手段です。
そのためのノートとペンを常に身近に置いておくのがオススメです。
例えば、
「来週の火曜日は、10時に内科の山田先生のとこへ行くよ」
と言いながら、カレンダーの来週の火曜日を指差し、「内科、山田先生、10時」とノートに大きめの字で書きます。
ついでに、カレンダーにも書き込んでおくと備忘録にもなりますね。
そんなことは面倒だと思われるかもしれませんが、伝わらず何度も同じことを繰り返すのは、言う方も聞く方もストレスです。
何回聞いても分からないと、始めから聞こうとしなくなってしまうかもしれません。
ひょっとすると親御さんが、「書かなくてもわかる」と怒ったりするかもしれません。
そこは、「書いておかないと私が忘れそう」とか何とか、うまい理由を考えてください。
書いた方が分かりやすいとわかれば、親御さんも納得してくださるはずです。
4.大事な話は、まず始めに何の話かを伝える
プレゼンでもそうですが、いきなり話の細部から始まると理解しづらいものです。
最初に、「〇〇の話なんだけどね」と、話題を明確にしましょう。
聞く準備ができて、理解しやすくなります。
これも、ノートにタイトルのようにして書いておき、その後に話したことのキーワードを下に書いていくと、後から読み返しても分かりやすく、便利です。
認知症が疑われるとき
「認知症かもしれない、さあ病院で薬をもらわなきゃ。」
こう考えた方、ちょっと待ってください。
もちろん受診した方が良いですし、適応があれば服薬もした方が良いでしょう。
日常生活の不自由や不安を解決することが最優先
[親の日常生活の不自由を把握しよう!]
そして受診すると同時に進めなければならないのは、親御さんの日常生活の中の、不自由を解消し、不安を減らすことです。
受診しても服薬しても、認知症が劇的に改善するケースはまれです。
まず、安全な環境を確保することが最優先です。
認知症の疑いのある方が、助けてくれる人と同居されているなら良いのですが、そうではない場合、今一度、おうちの様子や親御さんの言動をよく観察していただきたいのです。
前にもふれましたが、金銭管理、食事、衣類の管理や衣服の着脱、服薬の管理、郵便物の処理、ゴミの分別など、
親御さんに尋ねるのではなく、実際にあなたがご自分の目で見て、チェックしていただきたいのです。
親御さんが栄養失調になったり、服薬できずに持病が悪化したり、出先から家へ帰れずに迷子になったり…。
高齢ドライバーによる人身事故も、社会問題になっていますね。
そのようなリスクを防ぐことは、必ずしも同居しなくても、工夫すればできることなのです。
もちろん、認知症の重症度によりますが。
[私の体験]
我が家のことをお話しすると、私たち家族は名古屋に住み、夫の母は、義父が亡くなってから浜松で一人暮らしをしていたので、私は1ヶ月に1回、義母を尋ねるようにしていました。
そのときは私がおかずを多めに作って冷蔵庫に入れておき、母は2、3日はそれを喜んで食べてくれていました。義母はこの頃、まだ買い物も炊事も一人でできていました。
しかし、ある頃から、私が作ったものが食べずに残っていたり、その反面、賞味期限の切れた惣菜がたくさんたまっていたりするようになったのです。
そこで、ガスコンロはやめて IH にし、自炊中心から宅配弁当に切り替え、介護保険で訪問介護を導入し、お掃除や買い物をしてもらうことにしました。
そしてご近所に、お菓子折を持ってあいさつに行き、「事情があって一緒に住めないけれど、なるべく様子を見に来るので、よろしくお願いします」と伝えました。
[介護が必要でなくても利用できるサービスはある!]
「介護というほどじゃないけど心配」という場合でも、介護保険には「要支援」という枠もあるので、居住地域の市区町村の受付窓口や相談窓口(地域包括支援センターなど)に、ぜひご相談ください。
私の実の母も一人暮らしでした。
障害というほどのものはなかったのですが、80代になってからちょっとした段差で転んだり、買い物がおっくうになったりして、私は母が心配になりました。
そこで、「要支援」の訪問介護でヘルパーさんに家事を手伝ってもらい、入浴が楽になるようシャワーチェアも借りました。
要支援でも、デイサービスや一部の福祉用具のレンタル、住宅改修などが利用できます。
認知症の人とのコミュニケーション方法
まずはわかりやすい話し方を!
認知症が軽度の場合、コミュニケーションの方法は、難聴の方への配慮と共通する部分が多いのです。
加えて、認知症の方が話したり理解したりするのに時間がかかっても、急かさず、ゆったりした気持ちで構えることが重要です。
- 静かな環境で、近くに寄って話す
- ゆっくり、はっきり、短く
- 視覚的手段を積極的に利用
- 大事な話は、まず最初に何の話かを伝える
- ゆったりした気持ちで
認知症の方にも補助手段は重要!
認知症の方は、言葉の理解に時間がかかったり、勘違いしたりしやすく、また話の途中で内容を忘れやすいので、カレンダー、地図、写真、キーワードの提示など、視覚的な補助手段を用いることは、大変重要です。
難聴の方は、言葉を発することには問題ないわけですが、認知症の方は、自分の言いたい内容と言葉を結びつける機能にも障害が出てきます。
なので、日時の話ではカレンダーを見せて指差してもらう、家族の誰かの話では家族写真の中で誰かを指差してもらうなど、話を正しく聞き出すためにも補助手段は重要です。
つまり認知症の方は、「明日」を「明後日」、「娘」を「息子」などと言い間違えてしまうこともあるのです。
もちろん、カレンダーや写真でも、選択を誤る可能性はありますし、ひょっとすると余計混乱するかもしれませんが、やってみる価値はあります。
話がどうもおかしいと思った時は、発言内容の間違いを疑ってください。
言い間違いや現状認識の誤りであり、嘘ではないのです。
一番重要なことは、想像力を豊かにして、言いたいことを推測することです。
そして、誤りを指摘せず、優しく質問して真意を探ってください。
私、ガッツかよめが認知症になったとしましょう。
本当は誰がきたの?
これは悪い例です。
では、良い例をどうぞ。
掃除してもらったよ。
ゆったりした気持ちで
夫の母が認知症になってからも、もちろん私は夫の実家へ行っていました。
義母のところへ行くと、ヘルパーさんやディサービスからの連絡事項を確認したり、服薬をチェックしたり、ご飯も作り、やることだらけ。
本当にもう忙しくて忙しくて、じっくり義母の話を聞くには時間が足りませんでした。
でも、認知症の方とのコミュニケーションは、認知症の方にペースを合わせ、ゆったりと相手を受け入れる気持ちが、とても重要なのです。
普通でも、忙しそうにしている人に話すのは緊張しますよね。
私なんて、すぐしどろもどろになってしまいます。
言葉のキャッチボールがうまくいかなくても、決して焦らず、気持ちを察して受け止めましょう。
難聴も認知症も疑われないとき
私は、夫の母とは、良いコミュニケーションをしようと、不十分ではありましたが感情をコントロールしていました。
でも、実の母には、感情をそのままぶつけてしまい、母を傷つけていたことが多かった気がします。
私には海外在住の姉がいるのですが、姉は母が入院しても手術をしても帰国しませんでした。
私は共働きで、仕事と自分の家の家事だけでも、いっぱいいっぱいだったのです。
でも「母のことは私の責任」と考えざるを得ない状況だったので、いつも「お姉ちゃんはずるい」と思っていたんですね。
そんなことは母のせいではないとは分かっていても、母に気持ちをぶつけてしまっていました。
そして私は、自分の考えを押しつけ、手っ取り早く責任を果たそうと思っていたのです。
そんな人のいうことを聞いて、自分の生活を変えてみようなんて、思えるわけがないんですよね。
もっと母の話をじっくり聞き、母の思いもくみ取っていれば良かった。
「お母さんのこと、いつも心配していて、無事でいて欲しい。お母さんが安心して暮らすためにはどうしたらいいか、一緒に考えさせて」
そんな優しくあたたかい気持ちで接していたら、母はもっと私の言葉に耳を傾けていたかもしれません。
親がいうことを聞いてくれないとき、ちょっとコミュニケーションの仕方を変えてみましょう
親が高齢になり、何だかコミュニケーションがうまくいかないと思ったら、ちょっと話し方を変えてみるのもいいかもしれません。
難聴や認知症が疑われなくても、高齢の人は情報の処理が大変になるものです。
ちょっと話し方を変えるだけで、関係も良くなるかもしれません。
もう一度伝わりやすい話し方をご紹介しますね。
- 静かな環境で、近くに寄って話す
- ゆっくり、はっきり、短く
- 視覚的手段を積極的に利用
- 大事な話は、まず最初に何の話かを伝える
- 認知症の方には、特にゆったりした気持ちで
そして、
気持ちを理解しようとし
行動パターンの急激な変化を求めず
環境調整を優先する
応援を求める(公的サービスの利用も)
これが、親も子どももなるべく負担を増やさず、安全を確保する方法だと私は思います。
難聴や認知症があればもちろんですが、特に障害がなくても、体力や気力が低下し日常生活が不安になったら、ぜひ、こんな風に親御さんに関わっていただきたいのです。
私はもうやり直すことができませんが…。
親との良い関係は自分の人生の宝物
親のこと、詳しく知れば知るほど、重い気持ちになったりしますよね。
でも、衰えていく親と良い関係でいられれば、自分自身の人生も豊かになります。
親が亡くなった後も、「やれることは全部一生懸命やった」と思えることでしょう。
晩年の親とどのように過ごしたかは、ずっと心に残るものです。
それに自分の老後を重ねてみることで、今後の人生に備えることができます。
けれども、親のことで疲れきってしまったり、精神的に追い詰められたりしないように、ご自分の時間も大切に。
一人で頑張ろうと思わないで、ご家族でも、行政でも、隣近所でも、応援を求めてください。
私の体験談は、親不孝な娘だった私…でも親孝行ってなんだろう?でも、詳しくご紹介しています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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