笑いで夫婦円満に!ダーリンは妖怪?!(3)評価活動の恐怖

2017年12月9日笑える小話と家族のエッセイ

こんにちは ごにょごにょ研究室のガッツかよめです。

以前、ダーリンが妖怪手洗いであるというお話をしたら、これが意外に好評! 初回、第2弾に続き、第3弾!! 今回は、妥協を許さない妖怪の、妖怪にも人にも厳しい評価活動について詳しく解説します。あのスティービー・ワンダーのライブが最後まで聴けなかった理由とは…。ダーリンが「妖怪」であることの詳細についてはぜひともこちらをご覧ください。

ダーリンは妖怪?!夫婦がずっと楽しく暮らす秘訣

自己コントロールの鬼!驚くべき自制心の妖怪

妖怪は仕事でもプライベートでも自分が「ここぞ」と思う時には徹底的にエネルギーを注ぎ込むのである。環境を整え、体調を万全にするために、大切な仕事の前日は、どんなに楽しい出来事があっても必ず早めに帰宅し、準備物リストを作成し、それらを漏れなくカバンに詰めたかどうか声に出して「ハンカチ1枚、投入済み」、とひとつひとつ確認し、小学生のように早寝し、体調もととのえておく。一方、妖怪の女房は、翌日にどんなに大事な仕事があっても前日楽しいことがあると、ずるずると目の前の欲望にかられフラフラと街をさまよってしまう。

「いいじゃないの、もう1軒行こうよ」
などと、言われるとホイホイとついて行ってしまい、大切な日に寝坊したり忘れ物をしたりするのである。

妖怪は
「自制心、自己コントロール」
をモットーとし、
女房は
「なすがまま、まあいいか」
をモットーとしている。

妖怪は緊急事態にも動揺することなく対処できるよう、絶えず精神状態をととのえ、最悪の事態を想定して準備する。また、とっさの判断も非常に的確であり、その優先順位を誤るようなことはめったにないのだ。

いざという時はいつでも妖怪にお任せ!

妖怪は、妖怪であるにも関わらず、職場のセキュリティの責任者である。このため休日でも夜中でも食事中でもアラームがなれば、原因を追究し対応せねばならない。あれは、妖怪の職場が火事になった時だった。
以前からアラームが鳴れば、何をおいても現場へ急行する妖怪であったが、あの日も夜中のアラームで飛び起きて出て行った。結局、作業場の一部が焼失したが原因は不明だった。

居住地が職場から1番遠いにも関わらず、誰よりも早く現場に到着した妖怪は、消防や警察との対応、関係する取引先や行政機関への連絡、現場の片付けに追われ、結局まる2日、帰ってこなかった。夜は他の社員を自宅へ帰し、ひとり不眠不休で対応していたらしい。帰宅した妖怪は、倒れるように居間で力尽き、言葉を交わす間もなく意識を消失していた。

また、職場でトラブルがあると、その対応にあたるのも妖怪である。
以前、妖怪の職場から生じる作業音がうるさくて難聴になったと訴えるご近所の方がいた。この方と一緒に補聴器の調整に行ったり、この方の趣味である陶芸作品などを数時間にわたり見せていただくのも、妖怪の大切な役目であった。社内の皆が、この役割を引き受けたがらなかったのだが、先方から常に妖怪が指名されていたのは、重要な任務とはいえ、大変気の毒であった。自身が気難しい妖怪は、仕事上どうしても必要となれば、気難しい人間の対応も実に上手いのであった。

仕事のみならず、家族の困りごとにも、妖怪は絶大な威力を発揮した。
ふだん、ちょっとした雨などで迎えに来るようなことはないが、台風の時などは
「7時に迎えに行くから仕事を済ませておけ」
と妖怪から女房に電話が入る。

のんきな女房が
「はあ? なんで迎えに来てくれるの?」
と、ねぼけた声でと聞くと
「電車が全線不通だ」
と教えてくれた。

神は細部に宿り、妖怪は細部に棲みつく!妖怪のこだわり

そんな妖怪の口癖は「細かいことに注意を注ぐのが重要」である。

妖怪の細部への探求は、食事の食べ方を見ても一目瞭然である。
妖怪は箸で取り皿から口へ運ぶ時に、食物の煮汁などが落ちることを懸念し、箸で取った食物を取り皿の上で必ず3回振る。それは素晴らしい知恵であるのだが、全く汁気のない、たとえばフライドポテトであるとか、干物などでも、すべて必ず3回振って食べる用心深さだ。これは予測不能な災害にも備える、妖怪の人生哲学を如実に表している。


「神は細部に宿る」と言ったのは建築家のミース・ファン・デル・ローエであるが、「妖怪は細部に棲みつく」のである。

妖怪への営業担当者はご注意!恐怖の「妖怪試験」!

このように、常に細部にまで注意を払って生きている妖怪は、常に最良の判断を心がけるために、何事にも評価を欠かさない。たとえば、妖怪に何かの商品を勧める営業担当者は、「妖怪試験」に合格しないと受注を勝ち取ることはできない。

この妖怪試験は難しくはない。が、恐ろしい。
商品知識が豊富で、妖怪の的を射た鋭い質問に即答できれば良い。また、即答できなくても迅速で誠意のある対応ができ、お客様のために力を尽くすという姿勢が見えれば合格なのだが、女房に似た怠け者の営業担当者は、「もう面倒くさいなあ」という態度を見せてしまったりする。そうなると大変である。女房はこれまで妖怪の逆鱗(げきりん)に触れた営業担当者を数多く見てきた。電話口で詰問する妖怪の話の内容は全て正論であり、妖怪は始めは至って冷静であるのだが、縮み上がる若い営業担当者が見えるようで女房まで冷や汗が出る。

「だから、私はあなたが即答できなかったことに文句を言っているわけではない。商品を売りたいのはあなたで、こちらの質問に答えられないのはあなたなのに、なぜ私の方が別のところに電話をしなくてはいけないのか教えていただきたいと言っているのですよ」

反面、妖怪は自分に全く利益がなくても、妖怪試験に合格した営業担当者を熱心に引き立てる。妖怪に気に入られた営業担当者は、数々の顧客を紹介してもらえるし、「今月は成績が悪くて困ってるんですよ」という態度を見せると、そんなら、とたいていは助けてもらえる。

以前、ワインの輸入会社の営業担当者が試験に合格した時は、狭い棲家には入りきらない量のワインが届き、女房は閉口した。しかし女房は連日それを大量に消費したため、全く置き場所に困ることはなかった。

女房は何本飲んでも全くワイン通にはならず、いまだに赤と白とロゼの3種の分類しか理解できない。

完璧な妖怪のたったひとつの欠点、飽く事なき「評価活動」

このように、常に慎重で正しい道を完璧に生きている妖怪の、たったひとつの欠点は、妖怪自らの仕事のみでなく、他人の仕事でも手抜きを見過ごせないことである。

この妖怪の評価活動は徹底的で休みなく行われ、ちょっとした書類を取りに行った後でも、役所の担当者の上司に電話して、冷静に対応の悪さを報告するなどということも日常茶飯事である。そのかわり、対応が素晴らしい時も上司に報告してほめているので、まあ、ここまで徹底すれば、世間の迷惑と言うよりむしろ有効な社会活動をご苦労様と思う。

しかし、妖怪の評価活動の対象は、若輩者や周囲の人のみではなく、我々一般大衆とは異なる、いわゆるビッグネームも含まれるのだ。

妖怪の評価活動の対象は、ついにあの大物にまで…

妖怪と女房は音楽が大好きで、時々ふたりで鑑賞に出かける。
もう20年くらい前の話だが、あの、7不思議の1つと言われ、世界中の音楽ファンから敬愛される、音楽界のキリストのようなスティービー・ワンダーがやってきた。妖怪も女房も彼の大ファンで、結婚式の新郎新婦入場に彼の曲を使った。娘が生まれてすぐ、妖怪がカセットテープに入れて病室に持ってきてくれた曲も、スティービーが愛娘アイシャに捧げた ”isn’t she lovely” である。

やっとの思いで取ったチケット。

そのスティービーのライブ。もちろん1曲目から観客は総立ち、ノリノリで手拍子が始まった。前半が終わったくらいで妖怪が憤慨した口調で女房に耳打ちした。
「スティービーにしてはクオリティが低すぎだ。手を抜いているとしか思えない。日本のファンをなめてるんじゃないのか。俺は帰るけど、あんたはどうする?」

えーーーーーーーーっ?!

いや、そりゃね、スティービーにしては、思ったほど神がかってないなと私も思った。だが、せっかく大枚はたいて買ったチケットだし、そこまでしなくても良いのでは…。
だが女房が残ると言っても、絶対に妖怪は帰るだろう。そうなれば気の小さい女房は、妖怪のことが気になってライブどころではない。
そうして、熱狂し続ける観客の歓声を聴きながら、妖怪と女房はコンサートホールを後にした。

同じようなことは妖怪と女房が大好きなジャズ・ベーシスト、マーカス・ミラーのブルーノートでのライブでもあった。
マーカス・ミラーも、その圧倒的なセンスと技術で世界中のベース小僧を瞬時にひざまずかせる、神様のようなベーシストである。

ライブが始まり、マーちゃんの、ギターと聴き間違えるほどの歯切れのよすぎるベースの演奏が始まってすぐ、妖怪は
「バックバンドがこんなにへたくそなんて信じがたい。きっと安上がりな連中を使って自分の収入増大を図っているんだ。俺は帰る。あんたは残ってもいいぞ」
と席を立った。

えーーーーーーーーっ?!

このブルーノート公演は音楽だけの代金が、1人1万超えである。
スティービーの時と同じように女房は妖怪の後を追った。
妖怪は帰りしな、ホールにいた従業員に
「あんた、こんなんでいいと思ってるのか?」
と、毒づいていた。

いや、私もね、バックバンドはへたくそだなって思ったけども、1万円以上払ってるのに、もったいないなあって…。
そう思いません?
「いいと思わないのに聴いていたら金だけじゃなくて時間まで浪費したことになる」
妖怪の言い分に女房は反論できない。
はい…。

こんな妖怪のエピソードを書き連ねていたら、妖怪のアイドル、スティーブ・ジョブズの逸話を思い出した。アイフォンのヒットで有名なアップル社の創設者で、CEOでもあった彼が、エレベーターで偶然乗り合わせた従業員に突然、「君はアップルのために、どんなことをしているのか」と質問した。

緊張のあまり即答できなかった彼を、ジョブズはなんと、その場でクビにしてしまった。

妖怪はCEOではないけれど、妖怪の会社にエレベーターがなくて、本当に良かったと思う女房です。

読んでいただきありがとうございました。これからも、女房は、完璧な妖怪の、たった一つの欠点を、順次お伝えしていこうと思っております。

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