海野雅威 “Get My Mojo Back” 発売記念ライブに行ってきました!|ゴニョ研
こんにちは
海野さんの記事を書きすぎて、もうタイトルが思い浮かばないガッツかよめです。
5月1、2日に名古屋のTHE WIZ で行われたライブを、1st、2nd 通しで計4ステージ聴いてきました。
Tadataka Unno Reunion Trio 演奏する喜びが伝わるライブ
1日目・久しぶりの生海野さんにウルウル
テレビやラジオにたくさん出演し、最新アルバムは Amazon のジャズ部門で売上1位とか。
今や話題をさらう人気者になった海野さんは、今までとは違う雰囲気になっちゃったかしらと、私はドキドキしながら登場を待っていました。
WIZの店内は、あまり宣伝していなかったせいか、というより常連さんだけで早々にチケットが売り切れたためか、シニアサロンのような雰囲気でした。
もちろん私も中心メンバーです。
現れたのは、ひょうひょうとした海野さん。
ご挨拶も威風堂々というよりシャイな感じ。
前と全然変わりません。
1st の始まりはタイトル曲 “Get My Mojo Back” 、続けて “Bird Base” 。
幸運にも私の席は、指もバッチリ見られたんです。
だから、美しい音色やしゃれたフレーズに酔いしれたり、鍵盤の上を飛ぶ蝶のような上品な指の動きに見惚れたり、力強いタッチでは肩は痛まないのかしらと心配したり、本当に忙しかったです。
何より私は、あの悲惨な事件以来、演奏する海野さんを生で見るのは初めて。
目の前でエネルギッシュに、本当に楽しそうに演奏される海野さんを見るだけで、目頭が熱くなり、ウルウルしてしまいました。
“Circle"・カリプソの歴史と海野さんの演奏の秘密
1stでも2ndでも演奏されたオリジナル、”Circle” は、カリプソ風のリズム。
海野さんはこの曲を真に理解し自分のものにするまで、時間がかかったとおっしゃっていました。
カリプソ発祥の地はトリニダード・トバゴ。
そこは他国に送られるアフリカ人奴隷たちの中継地点だったとか。
母国語が違い、お互いに言葉が通じない中で、奴隷同士コミュニケーションをとる手段として生まれたのが、カリプソの始まりと言われています。
この曲を聴くと、私はいつも、心地よい風が吹く海辺にいるような気持ちになります。
そして空は青く、どこまでも澄み切っている…。
カリプソの歴史を深く理解してこそ、その青空の色は深みを増し、より人の心に響くものとなるのでしょう。
どんな曲も簡単そうにひょいひょい演奏しているように見える海野さんですが、曲に対する探究心は実は並外れたものなのですね。
海野さんの曲が、聴くたびに新鮮で、聴くときの気持ちによって全く違う色彩を放っているように思うのは、おそらく私だけではないと思います。それは、海野さんの、曲を深く掘り下げる努力が実を結んだ結果なのかもしれません。
この曲は、アルバムではドラムとパーカッションが力強いリズムを刻んでいますが、海野俊輔さんのドラムも、たった1人でいろいろな鳴り物を自在に操り、情熱的で躍動感にあふれていました。
小さな布や鈴を棒の先にくっつけた、猫じゃらしのような楽器を叩くと、赤ちゃんのくしゃみのような音がするのが興味深く、もっと叩いて欲しいと私は目で訴えてしまいました。
3人のレジェンドのピアノを受け継いで欲しいと請われたエピソード
インタビューをたくさん経験されたせいでしょうか、以前に比べると、海野さん、心なしか饒舌になったようで、MCも大変おもしろかったです。
これまで、3人のレジェンドのピアノを受け継いで欲しいと請われたとか。
お一人は海野さんのアイドル、ワシントンD.C.で地元の人々に愛されたディック・モーガン。
それから、海野さんが渡米される前からレコーディングで共演されていた、ハンク・ジョーンズ。
そして、今の海野さんのピアノの元の持ち主である、ジュニア・マンス。
でも、ハンクが海野さんに受け継いで欲しいと言ったピアノは、ハンクのものではなく、ジャズ・ファンデーションとかいう団体から貸与されたものだったんだそうです。
このMCに続いて演奏された曲は、ジュニア・マンスに捧げた海野さんのオリジナル ”Mr. Elegant Soul”。
ベースラインが本当に魅力的。吉田豊さんのベースに酔いしれました。
スタンダードも聴きごたえ満点! 同じ曲を何度も聴きたくなる名演奏
もちろんスタンダードも盛りだくさんでした。
エリントンの誕生日にちなんで
「確かエリントンの誕生日だと思うんです」、と “Take the 'A’ Train" と ”Drop Me off in Harlem” の2曲を演奏した後、「でも、2曲とも大嫌いになりました」と海野さん。
悲しい事件を思い出す1コマもありました。
でも、「A トレインは、ハーレムまで一番早く着くんです。だから、今日はゆっくりにしました」
とお茶目に笑う海野さんにちょっと安心しました。
すごく遅いテンポの A トレイン。今まで一度も聴いたことのない、おしゃれなアレンジでした。
“I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free"
讃美歌「慈しみ深き」のメロディが聞こえてきて、こんな讃美歌も海野さんが弾くと、なんとおしゃれなんだろうと思っていたら、スルスルと曲は ”I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free” へ。
そういえばこの曲は、作曲者ビリー・テイラーから直接手ほどきを受けたと、海野さんがどこかでおっしゃっていました。
黒人公民権運動のアンセムとして有名な曲ですね。
詳しくは今聴きたい! BLM の精神を支える10曲〜ジャズを中心にへ。
ビリー・テイラーといえば、クリスチャン・サンズなど精鋭ピアニストを育て、教育者として、音楽家として、ジャズ界で尊敬を集めた人。
その彼が一方では黒人として差別を受け続け、現実は自由ではないけれど、「自由になったらどんな気持ちだろう?」という思いを込めた曲です。
それがこんな、底抜けに明るく軽やかな曲であることに、私はいつも新鮮な衝撃を受けます。
ジャズピアニストとしては多くのレジェンドに賞賛されながら、ヘイトクライムによる大怪我でピアニスト生命さえ危うくなった海野さんだからこそ、この曲で表現できるものがあると実感しました。
躍動感にあふれたダイナミックな演奏なのに、本当に胸に染みる深い音でした。
河村英樹さん登場!
1stも2ndも、アンコールは、海野さんが「兄貴」と呼ぶサクソフォニスト河村英樹さんを迎えてのセッション。
河村さんが海野さんのライブを聴くために、神戸から駆けつけてくださったそうです。
1stは、”Just Friends” 、2ndの曲名はわからなかったのですが、ノリノリで、しかも最後は短くソロを回す白熱のバースもあって、会場に割れんばかりの拍手が巻き起こりました。
河村英樹さん、本当にソウルフルで歌心満点で、すばらしかった。
2日目のステージは目が飛び出るほどだった
もちろん1日目もすばらしかったんですが、2日目はさらにすごかったんです。
1日目にも増して、どの曲もオリジナリティにあふれた大胆で新鮮なアレンジで、思いもよらない展開になったり。
トリオの一体感も1日目にも増して心地よく、それでますます演奏もヒートアップするのが、音にありありと現れていました。
1曲目、「ロシアに戦争やめてくれという気持ちで」と「ロシアン・ワルツ」から始まり、"They All Laughed"、"Detour Ahead" などのスタンダードに新しいオリジナルを交えての演奏。
私はもう、うっとりしたり目が飛び出したり顎が外れたり、忙しかったので、ほとんど覚えていないんですよ。
海野さんのソロは、全身いたるところにフレーズの引き出しが装備されているかのような多彩さ。
加えて、ただの玉手箱ではなく、「ここでなければ」という必然性でぴたりと流れにはまり、神々しいほど芸術的な演奏でした。
それでいて、"Until You Hear From Me" ではピンク・パンサーのテーマが飛び出して、会場は笑いの渦に、なんてこともありました。
こんなふうに散りばめられるユーモラスな引用は、海野さんの得意技のひとつ。
ジャズの醍醐味ですね。
2ステージ目の最後だったか、私の大好きな “Enjoy It While You Can" では、海野さんの 「リピート アフター ミー」 のかけ声で、海野さんが弾くワンフレーズを会場が合唱するコールアンドレスポンスの一幕も。
1ステージ目のこの曲の演奏では、会場 THE WIZ の良子ママが怪しいダンスをしていたとかしていなかったとか。私も手拍子だけでは飽き足らず、踊れたらなあと思いました。
そして2ステージ目の2回目のアンコール。
鳴りやまない拍手に
「やりますやりますやります」
と、芸人風の海野さんとともに現れたトリオが演奏してくれたのは、それはそれは美しい “Over The Rainbow"。
細い糸を紡ぐように奏でられる光り輝く繊細な音に包まれて、夢心地でした。
まとめみたいなもの
私はもちろん、"Get My Mojo Back" は発売日に入手し、聴きまくっていました。
このアルバムは管楽器もパーカッションもあって、ラテンの曲も多い。
だから、トリオじゃちょっと迫力に欠けるかも、なんて思っていたんですよ。
とんでもなかったです。
ライブで聴いたオリジナルは、ほとんどアルバムとは違うアレンジで、とても新鮮で、トリオでも録音してほしいと思うほどでした。
良子ママさんも、
「アルバムとは、全然別物! 別物だから。本当に楽しめるの!」
と力強くおっしゃっていました。
それにしても、オリジナルもスタンダードも、テンポもリズムもキーも変幻自在で、いつどう変わるか全く予測がつかず、こんなこと、その場でやってるなんて、とても信じられません。
そこで海野さんに
「リハーサルしたんですか?」
と聞いたら、
「そんなのするわけないじゃないですか」
と、さらっとおっしゃっていました。
そんなこと聞いちゃって、大変失礼いたしました。
聞けば、海野さんはまだ、肩に違和感があるとか。
演奏前にセラピストに肩を治療してもらうこともあるとのことでした。
このステージを聴いて誰が、そんな人の演奏だと思うでしょう?
素人ながら私は、今の海野さんの演奏は、むしろ受傷前の海野さんの演奏より、さらにスケールが大きく、ダイナミックで説得力が増したように思うのです。美しい音はより美しく、力強い音はより力強く、ダイナミクスの幅もアーティキレーションの精度も上がったように思います。
そうそう、それから会場となった名古屋市東区のTHE WIZは私の大好きなお店です。
ジャズを愛し、ミュージシャンに慕われる良子ママのおかげで、あたたかな空間ですばらしいひとときを過ごすことができ、本当に幸せでした。
海野さんとめぐりあえたことを心から感謝します。
長々とおつきあいいただき、ありがとうございました。
演奏された曲や曲名の誤りは、広い心でお許しいただけますと幸いです。
クレジットのある写真は全て伊藤純治さん撮影のものをお借りしました。
この場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
アルバム ”Get My Mojo Back” のレビューも書いてます〜。
ジャズピアニスト海野雅威の復帰第1弾CD・Get My Mojo Back
そして、海野さんのアルバム、動画など、こちらにまとめています。
海野雅威の情報集結!ライブ・アルバム・お宝動画・逸話等一覧
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