Tadataka Unnno Plays Jazz Standards~solo piano~|ゴニョ研
寒い日の温かいスープのようなアルバム"Plays Jazz Standards"
念願の、海野雅威さんのソロピアノアルバムを入手しました。
タイトルどおり、全曲スタンダードで、聞き覚えのあるメロディがたくさんあります。
とっても親しみやすくて深く優しく暖かいアルバムです。ぜひ試聴だけでも!!
Tadataka Unno Plays Jazz Standards
海野雅威
ジャンル: ジャズ
Released: November 23, 2011
(クリックしてiTunesにて全曲試聴可能)
- A列車で行こう
- ジョーンズ嬢にあったかい?
- ニューヨークの秋
- いつか王子様が
- The First Meeting
- 酒とバラの日々
- Lush Life
- Blue Wig
- この素晴らしき世界
- How Deep Is The Ocean
- All The Things You Are
- Amazing Grace~If I Can Help Somebody~故郷
- Suck Full Of Dreams
- You Don’t Know What Love Is
- Smile
2011年4月23日 N.Y.アヴァター・スタジオにて録音。
このアルバムは、東日本大震災のすぐ後に録音されているのですね。
ライナーノーツによれば、海野さんはこう語っています。
やるせない気持ちの時にレコーディングの話が持ち上がり、当初はちょっと戸惑いました。でも、9.11 のテロを経験した友人に、"苦しくても普段の生活を営む事が亡くなった方へのせめてもの弔いになる" と言われ、様々なことに感謝しながら演奏し続けたいと思えるようになったんです。
そして菅野聖さんがライナーノーツで書かれているように
「全ての曲に仁愛の心を感じる」アルバムになっています。
ピアノソロはリズム隊もいないし、誰かのバックに回ることもなく、全く気を抜かず一人で弾き続ける。
だからでしょうか、聴くのも疲れることが多いんですよね。
でも、海野さんのソロは、むしろ疲れている時に聴きたくなります。
流れてくる音に身を任せているだけで、安心できて元気になります。
寒い日の温かいスープのように、心に効きます。
曲のすばらしさが心に届く珠玉の演奏
このアルバムでは、聴き覚えのある曲が多いけれど、すべての曲がとても新鮮なんです。いろいろな演奏を何度も聴いた曲でも、新しい曲を聴いたような喜びがあります。
それなのに、「目新しいことをしなければ」という気負いは、演奏からみじんも感じられない。
海野さんが心をこめて大好きな曲をとてもていねいに弾いているだけ。
料理で言うなら素材の素晴らしさを十二分に生かした調理法。
結果的に、聴いている私たちは、彼の、すさまじいほどの技術力の高さや、表現の豊かさ、ジャズの様々なスタイルへの造詣の深さ、を感じ取るのだけれど、当の本人に、それを誇示する気など、きっとさらさらないのです。
ロイの公演の後に海野さんが私におっしゃった言葉を思い出します。
「小さい頃から好きなことを、ずっとやっていただけ」
結局、音楽の表現というのは、その曲1曲をカッコよくしようと画策しても上手くいくものではなく、日々の研鑽で積み上げられた技量の豊かさから花開くものだけが、その曲を新鮮にしたり美しくしたりできるのですね。
「積み重ねです」
ん?
ぎゃ~~~~~っ!!!
レッスンのたびに私がピアノの先生に言われる言葉です。
ああ、もう嫌になってきた……。
どれも海野さんの素晴らしさが詰め込まれた佳作
どの曲も好きなんですが、特にお勧めしたい曲をご紹介します。
1曲目:A列車で行こう
余りにも有名なデューク・エリントン楽団のテーマ曲。
この曲のノリノリ感を一人で出すことができるなんて!!。
ほんとに超ゴキゲン!
ひとつひとつの音に、いや休符にさえ、生き生きとしたリズムが感じられます。
左手のベースがとても安定していて、右手はとても軽やか。
ピアノソロの素晴らしさが満喫できる曲。
4曲目:いつか王子様が
美しいメロディとハーモニー。
ロマンチックなジャズワルツで始まり、
途中4拍子のスウィングになり、またワルツに戻ります。
最後はテンポルバートでピアノの鍵盤をフルに使って存分に歌い上げます。
海野さんはジャズを弾くために生まれてきたのだと、
そんな風に感じる1曲です。
6曲目:酒とバラの日々
あまりにも有名なスタンダード。
本当にいい曲だわ。
身体のどこかにリズムマシンが隠してあるのではないかと思うほどの安定したリズムと、最高のグルーブ感。ベースもドラムもいらないんじゃない?? と思います。
12曲目:Amazing Grace~If I Can Help Somebody~故郷
このアルバムのライナーノーツによれば、このメドレーは東日本大震災がなければ録音されなかったそうです。
“If I Can Help Somebody" は、(東日本大震災への)チャリティ・コンサート"Blue Note Jazz Benefit for Japan"で、ハーレム育ちのベテラン・ヴォーカリスト、フランク・シニアとデュオで共演。文部省唱歌「故郷」に関しては、震災直後、ニューヨーク在住の日本人が歌っているのを多く目にし、改めてこの曲の素晴らしさを再認識したそうだ。
()内の記述は筆者
“Amazing Grace" は、とても懐かしい香りのするブルースになっているんですが、ゴリゴリの重苦しいブルースではなく、そっと心に染み込むような、洗練されたブルースなんです。
「故郷」は学校の音楽室で歌わされた、あの曲と同じ曲とは、とても思えません。先生がこんな伴奏をしてくださったなら、生徒は全員この曲のトリコになったでしょうに。
15曲目:Smile
漆黒の闇にたくさんの小さな星がきらめくような、そんな美しい音で始まります。
私、寝る前に部屋を暗くして、良いオーディオで(でもヘッドフォンですが)、静かな曲を聴くのが大好きなんです。
そんな時に聴きたい曲です。
アドリブなしでテーマだけ。
なんて美しい曲なんでしょう。
ジャズ通にもジャズ初心者にも、ぜひ聴いていただきたいアルバム
オスカー・ピーターソン、レイ・ブライアント、アンドレ・プレビン、ビル・エバンス、ディック・モーガン…。
海野さんの演奏から思い出す、いろいろなピアニスト。でも誰とも違う。海野さんだけの世界。それは年々色濃くなっているように思います。そして聴く度、安定感が増し、情熱が高まり、スケールが大きくなっているように思うのです。
おもしろい本を読んでいて終わりに近づくと悲しいこと、ありませんか?
私は海野さんの演奏を聴いていると、そういうことがよくあります。
1曲の曲を弾き終わってほしくないと思うのです。
ロイの公演の最後での、海野さんのソロ演奏の時、私は、「終わらないで」と祈りました。
今までジャズを聴いたことがない方にも、飽きるほどジャズを聴いてきた方にも、是非聴いていただきたいアルバムです。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
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