元気になれる!“Nathan East” 凄腕ベーシストソロAlbum!|ゴニョ研
Nathanは、彼がベースを演奏し出した途端、曲に生き生きとした躍動感あふれるリズムが吹きこまれる、グルーブの神様のようなベーシストです。彼の名前を聴いたことがない人でも、エリック・クラプトンの “Tears in Heaven" を耳にしたことがない人はいないと思います。この曲はクラプトンが息子の死を悼んで作った、あまりにも美しいバラードですが、グラミーを獲ったアルバム“Unplugged”の中で、この曲のベースを弾いているのが、ネイザンです。
彼はエレキベースの達人として知られますが、ここで弾いているのはアコースティックベース。ジャズでよく見るウッドベースとは違い、アコースティックギターを大きくしたような形状のもので、肩からかけて弾くみたいです。まあ、4曲目を聴いてみてください。で、うるさいことばかり言うようですが、iphone のスピーカーだと低音が響かないので、iphoneなら是非イヤホンで。Mac なら大丈夫です。
いかがでした? ネイザンの歌心全開のベースプレイが力強く温かくて胸にしみます。もちろん、クラプトンのギターも素晴らしいのですが。
さて、Nathan は10代後半から活動しはじめ、クインシー・ジョーンズ、ジョー・サンプル、マイケル・ジャクソン、スティービー・ワンダー、ダフト・パンクなど数多くのアーティストをベースで支えてきました 。1990年からは、ボブ・ジェイムス、リー・リトナーらと “Four Play” というバンドを結成し、アルバム制作やライブ活動を行っていますが、ソロアルバムは、2014年リリースのこの“Nathan East”が初めてなんです。
ジャズ、ロック、R&B、ダンスミュージックと様々なジャンルの曲を、40年以上も演奏してきた彼だけあって、このアルバムの曲はバラエティに富み、スティービー・ワンダー、エリック・クラプトンをはじめ、ネイザンと、音楽という絆で結ばれた素晴らしい演奏家たちがゲスト参加して豪華なアルバムになっています。
豪華ゲストで聴きごたえ十分!ムチャクチャ楽しめる “Nathan East”
1曲目 “101 Eastbound”
作曲はNathanと甥っ子のMarcelの作曲です。波の音、鳥の声、ラジオのチューニングの音、ドラムのリムショット、アコースティックギター、そして、ファルセット(裏声)でのスキャット(ダバダバ、ドゥビドゥビってやつ)と、音が増えていくアレンジがしゃれているんですが、残念ながら試聴では聴けず。スキャットもNathanで、録音時はたぶん57,8歳ですが、なんとセクシーな声でしょう?
Nathanの演奏では、その曲のリズムとハーモニーの根幹をしっかりと構築するという裏方的な作業に力が注がれることが多く、言ってみれば地味です。スラップ(打楽器のような音を出す奏法)も、ここぞという時しかしないんですが、そこがまた効果的すぎてしびれるんですよね。でも、この曲の後半のエレクトリックピアノのソロの時などは、こっそりずいぶん複雑なフレーズを奏でているし、最後のコーラスは、メロディの合間のフィルインでほぼベースばかりがフューチャーされてます。それがまたセンス抜群のフレーズばかりなんですよね。ベースがドラムとのコンビネーションが良いのは当たり前ですが、Nathan のベースは、ギターやピアノなどのバッキングとも悔しいほど絶妙なコンビネーションを作っています。
あなたに120%のやる気を保証するNathan の “Sir Duke”
2曲目 “Sir Duke”
スティービー・ワンダー作曲の名曲中の名曲のこの曲は、数々のカバーがあるけれど、この作品は本当に楽しくってベースがかっこよくて素晴らしいです。
日本が大好きで「寧山 東」という日本名を大事にしているネイザン。このYouTubeには、この曲のメイキングの動画があるんですが、その中でも、スティービーの真似したりして、おちゃめな彼をますます好きになります。ベースで弾くメロディもカッコいいけれど、全体のアレンジがものすごくしゃれています。全体のアレンジは Nathan と Jeff Babko と Michel Thompson。管楽器のアレンジは Tom Scott ですが、スタジオで話し合いながら、みんなでアレンジしてる様子が、動画でよくわかります。トム・スコットは動画の中で、この曲はバイブルのような曲だから、曲の雰囲気を大事にしたアレンジにしたいと言っています。
また、ネイザンは動画の中で、この曲を選んだ理由を話しています。
2週間前、ノルウェーのホテルにいたらビッグバンドの演奏があって、立ち止まって聞いていたら、バンドのベース奏者が彼に気づいてベースを渡してきた。そうしたらバンドが “Sir Duke” を演奏し始めたので慌ててついて行った。とても楽しかった。バンドのみんなも心から楽しんでいた。改めて、この曲の素晴らしさを知って、この曲を入れようと思った、と。
この曲、是非活動的になりたい時に聴いてください。かなりの確率でやる気がわきます。そして何度聴いても飽きない。いつも、もう終わっちゃうの?って思います。
3曲目 “Letter From Home”
ギターの神様パット・メセニーの曲です。幻想的なアレンジ。メロディ弾いてるのがギターなんだか、ベースなんだか、ベースの音が明確すぎてわからなくなります。メロディの美しさが十二分に味わえる演奏。弦楽器も効果的で、広大な景色が目の前に広がるようです。
4曲目 “Moon Dance”
ベースとヴォーカルのデュオで始まります。ものすごく渋い。ぜひネイザンのベースが生み出すビートを味わっていただきたいのに、ここを試聴できなくて残念。歌はマイケル・マクドナルド。ドゥービー・ブラザーズにもいましたね。ベースも歌もソウルフル!!ドラムの短いフィルを合図に管楽器隊も入って盛り上がること盛り上がること! ここ、最高にかっこいいです。管楽器のアレンジは “Sir Duke” 同様、トム・スコット。サックスも吹いています。彼は昔カーペンターズの曲の間奏でサックスを吹いていて、私はいつも聴きほれていました。中学生の時からずっと彼のファンです。
5曲目 “I Can Let Go Now”
作曲は4曲目を歌っていたマイケル・マクドナルド。サラ・バレリスというシンガー・ソングライターが情感たっぷりに歌います。ネーザンのベースはオーケストラとの相性も抜群ですね。
ダフトパンクに捧げた “Daft Funk” で踊りまくろう!
6曲目 “Daft Funk”
Nathanはベーシストとして、ダフト・パンクの2013年のヒットアルバム “Random Access Memories” に参加。大ヒットした “Get Lucky” でもベースを弾いています。ネイザンは、“Daft Funk”は彼らに敬意を表する曲だと言っています。そしてダフト・パンクも使っている「トーク・ボックス」というエフェクターを使ってサビのメロディを歌うのは、Byron Chambers という歌手。最高に楽しいヤツです。彼のミドルネームが Mr.Talkbox なんですよ。トーク・ボックスは、ホースみたいなものを加えて歌いながらキーボードを弾くと、ロボットのような声が出るもののようです。この曲もYouTubeにメイキング動画があるんですが、、その場面も出てきます。
この曲の、鳥肌がたつくらい冴えわたったハモンドオルガンは Tim Carmon。そして、エレキギターでカッティングがキレッキレのリフ(繰り返しのフレーズ)を聴かせるのは、レイ・パーカーJr. 。彼は「ゴーストバスターズ」のヒットで有名だけど、スタジオミュージシャンとしてはカッティングの名手として知られています。レイは昔ブラックコンテンポラリーの歌手としても結構売れていて、ソロで来日した時に、20歳そこそこだった私は、コンサートの後に楽屋口で彼を出待ちしました。ほほほ。おじいさんになったなあと動画を見てたけど、私もおばあさんですわな。このアルバムには、レイが自ら参加させてほしいと言ったとネイザンは動画の中で言ってます。
7曲目 “Sevenate”
Four Play のギタリストとしてネーザンとともに活動してきた、チャック・ローブがこのアルバムのために書いた曲です。Four Play の中で一番若いのがネイザンで12月8日生まれ、二番目に若いのがチャックで12月7日生まれ。そんな関係に目をつけて作られたのが、7/8拍子で “Sevenate” というタイトルのこの曲。そしてアルバムの7曲目! おしゃれ!! はじめ、7拍子だと気付かずにリズムに乗って身体を揺らしていたら、合わなくなってびっくりして拍を数えました。とても繊細なアコースティック・ギターはもちろんチャック・ローブ。スキャットのメロディーに絡みながら、さりげなく始まり、後半ではメロディをスキャットとユニゾン(同じフレーズを弾くこと)する、おしゃれすぎるソロを弾いているのも、もちろんチャックです。
メイキング映像を見ると、この曲はピアニストでアレンジャーの Jeff Babko が、スタジオで演奏しながらハーモニーなどを変えて完成させたようです。彼はアレンジはもちろん、ピアノの演奏も、さりげないのに常に印象的で脱帽です。この曲は初夏、晴れた朝に小川のせせらぎを聴くような爽やかさ。チャックは 2017 年7月にがんで亡くなってしまいました。ご冥福をお祈りします。
8曲目 “Can’t Find My Way Home”
打って変わってロックです。作曲者のスティーブ・ウィンウッドがエリック・クラプトンと組んでいた “Blind Faith” というバンドの1969年の曲です。ギターを弾いているのはクラプトン。
9曲目 “Moodswing”
作曲もピアノも Four Play のリーダー、ボブ・ジェイムスです。ネイザンはウッドベース。音符が立ち上がって踊るような、リズムが際立った演奏。時々ビオラとチェロとバイオリンが入って曲に豊かな色彩を加えてくれます。ピアノとベースのコンビネーションは最高です。
“Overjoyed” でのスティービーのハーモニカにうっとりして時を忘れよう!
10曲目 “Overjoyed”
スティービー・ワンダー作曲で、オリジナルではスティービーが歌っています。ハーモニーもメロディーも大変美しい曲。ここでは、原曲に忠実なアレンジではあるものの、スティービー自身のハーモニカでいっそうメロディーの美しさが際立っています。クレジットを見たら、パーカッションはパウリーニョ・ダ・コスタ! 元セルジオ・メンデス&ブラジル77にいて、現在もスタジオ・ミュージシャンとして活躍する人。私は20代前半のころ、レコード聴いていて、この人の名前をクレジットに発見すると、「やっぱりなあ、パーカッションいい音だもんなあ」と妙に納得しました。しかし、スティービーのソロの後半でのパーカッションとの掛け合いは、スタジオで、つまりその場で生まれたものなんでしょうね。これも鳥肌もんです。ネイザンの抑えた演奏が見事に曲を引き立てています。
11曲目 “Yesterday”
この、あまりにも有名なビートルズの不朽の名作でピアノを弾いているのは当時13歳のネイザンの息子です。アレンジが息子ってわけでもないです。ネイザンはウッドベースで弓弾きもして歌も歌っています。まあ、親○○ですよね~~。
12曲目 “Finally Home”
原曲の作曲はなんと、あの小田和正。ネイザンは小田和正のアルバムでベースを弾いたことがあったんですね。小田和正の曲を、このアルバムのプロデュサーである Chris Gero とネーザンがハーモニーを変えたり歌詞をつけたりして完成させたようです。ピアノの音色をしみじみと味わえる素晴らしい演奏をしているのは、Billy Childs。オーケストラの編曲や指揮でも高い評価を得、クラッシックとジャズの融合を試みている人です。彼のピアノによって、この曲は見事に美しく花開いています。
この曲は日本盤にしかはいっていないようですが日本以外のファンにも是非聴いてもらいたい美しい曲です。
13曲目 “Madiba”
“Madiba”は、南アフリカ共和国でアパルトヘイト反対運動の旗手であり 27 年投獄されたのちに、アパルトヘイト撤廃後の南アの初代大統領となったネルソンマンデラの愛称です。ここでは、TOTO の結成やマイケル・ジャクソンの “スリラー” のレコーディングへの参加で知られる作曲家・キーボード奏者の David Paich がオルガンを弾いています。ネーザンは 近年、TOTO のレコーディングやツアーに参加していたようです。
もう一人、ここで取り上げたいのは、このアルバムのほとんどの曲でドラムをたたいている Ricky Lawson。どんなに激しい早いリズムでも非の打ち所のない正確なビートを叩きだし、手が何本あるのか疑いたくなるようなパターンやフィルをこともなげにこなしています。1981年に結成されたフュージョンバンド、イエロー・ジャケッツの最初のメンバーだったんですね。このバンドは次々にヒットを飛ばしグラミー賞も獲得したそうです。リッキーは2013年12月に亡くなっており、このアルバムは彼に捧げられています。
“America The Beautiful” シンフォニーとネイザンのベースの融合は神秘的!
14曲目 “America The Beautiful”
ベースの奏でるメロディで始まる非常に美しく雄大なオーケストラアレンジの曲です。第2のアメリカ国家といわれ、多くの音楽家に取り上げられている曲。ベースの弦の太さからくるは弾きにくさなど、みじんも感じさせない、美しく明確な音で、丁寧に演奏するネイザンの姿が目に浮かびます。
15曲目 “Four On Six”
伝説のジャズギタリスト、ウェス・モンゴメリーの曲。ピアノはビリー・チャイルズ、ギターはチャック・ローブ、ドラムはリッキー・ローレンス。ピアノとベースとのユニゾン(同じフレーズを弾くこと)が面白い曲です。こんな風な正統派のジャズでも、彼の音の鋭さ、明確なビート、センスの良さは冴えわたってます。ウッドベースもすごいんだなあ。
“Nathan East”、いかがでしたか? 彼の音楽人生の結晶のようなこのアルバム、楽しんでいただけたら幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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