“Spring is Here” 小曽根真 | 不朽の名作!|ゴニョ研
ようこそ、いらっしゃいました。
小曽根真の “Spring is Here” は、ジャズ好きな方はもちろん、初めてジャズを聴く方にもオススメしたい、全曲スタンダードの、とても親しみやすいのに質が高いアルバム。
なお、2018年5月23日にはアマゾンで “Spring is Here” の試聴が可能でしたが、時期によって不可能になる場合がありますのでご了承ください。
では、ごゆっくりお楽しみください。
“Spring is Here” 私をアドリブのトリコにしたアルバム
今回ご紹介するのは1986年に録音された、小曽根の3枚目のアルバム。プロデュースはゲイリー・バートン。
このアルバムはなんといっても全曲スタンダードでおなじみの曲ばかり。
ベースはジョージ・ムラーツ、ドラムはロイ・ヘインズ。
この大御所相手に25歳の小曽根が全然委縮せず、それどころか、彼らをすっかりその気にさせて最高のプレイをさせているのです。
私はこのアルバムを聴くまでアドリブを聴くのがあまり好きではありませんでした。
でも、このアルバムは違いました。
ピアノばかりでなくベースでもドラムでさえも、こんなにドラマチックでメロディアスなアドリブをそれまで聴いたことがありませんでした。
このアルバムを聴いてから、アドリヴを聴くのが楽しくなかった時は、演奏家が悪いのだと思うようになりました。
“Spring is Here” 若い小曽根がジャズのレジェンドとスタンダードを熱演!
スプリング・イズ・ヒア
Makoto Ozone 小曽根真
Amazon.co.jpアソシエイト
画像をクリックしてアマゾンで試聴可能
改めてメンバー紹介です。
- ピアノ:小曽根 真
- ベース:George Mraz(ジョージ・ムラーツ)
- ドラム:Roy Haynes(ロイ・ヘインズ)
- プロデュース:Gary Burton & Hideharu Ebine
1. “Beautiful Love (ビューティフル・ラブ) ”
1931年にヴィクター・ヤングが作曲しミュージカルにも使われた曲です。イントロなしでテーマが始まりますが、聴きどころはロイ・ヘインズのドラム。
シンバルは、お決まりのパターンに近くはあるけれど、なんとも変則的な複雑なパターンを叩いています。おまけにスネアを、これまた細かいリズムで叩いている。
なんじゃそりゃ??
と驚きに満ち満ちて聴き耳を立ててしまいます。
ロイ・ヘインズは1925年生まれ。
ジャズと言えば思い浮かぶサックス奏者チャーリー・パーカーのグループで活躍し、ジャズヴォーカルの、エラ・フィッツジェラルドとサラ・ヴォーン、2人の女王の伴奏を務め、その後自己のトリオでも活動しています。ジャズ・ドラマーとして間違いなくトッププレイヤーの1人。
続く小曽根のソロ、冒頭のピックアップのかっこいいこと!
ここから4ビートになって緊張感が高まります。
小曽根のソロの次はベースのムラーツのソロ。
この人はまず音がものすごく澄んでいて美しい。
聴きほれます。
続いてはピアノとドラムの8bars。
そして、スリリングなエンディング。思わず息を止めて聴いてしまいます。
2. “Spring is Here (スプリング・ヒア) ”
1938年にリチャード・ロジャース(作曲)とロレンツ・ハート(作詞)の名コンピが手掛けた曲です。まったりとした雰囲気に仕上がっています。
小曽根のソロは肩の力が抜けていて、モタってみたり、後ノリになってみたりします。
これが日本の若いピアニストにはない凄さだと私は思うのです。
みんな上手いし怒涛のようにフレーズを弾くけれど、聴いていると、ずっと早口でまくしたてられてるみたいな気持ちになるのです。若い時代でさえ小曽根には、ちゃんと「行間」で語る余裕があって、微妙なニュアンスをしっかりと伝えている。なんと心地よいことでしょう。
“いつか王子様が” ロイ・ヘインズの超絶技巧にしびれよう!
3. “Someday My Prince will Come (いつか王子様が) ”
1937年のアニメ映画「白雪姫」の挿入歌で、ラリー・モリー作詞、フランク・チャーチル作曲。ジャズのスタンダードとして数えきれないほどの録音があります。
小曽根のソロはものすごく構成が考えられていて、盛り上がりがしっかりあって、どんだけ技があるのかと驚愕するくらいフレーズはバラエティに富んでいます。
またねえ、ヘインズもムラーツも反応の早いこと。
ジャズメンの鏡ですよ!
この曲はテーマ→ピアノソロ→ベースソロ→ピアノソロ→テーマ→エンディングという構成なんですが、ソロの後のテーマでは、ヘインズが「えっ?」て言いたくなるくらい叩きまくってます。
この部分にパターンは一切適用しないんですかってお尋ねしたいです。
びっくり。
演奏時間で言うと5分01秒くらいからの連打の嵐にしびれます。
この曲はジャズの帝王、マイルス・デイビスの演奏が有名です。私はマイルスがいろんな人から絶賛され過ぎるのでアンチ・マイルス派なんですが、この演奏は素敵です。アンチを引退しようかと思案中です。
4. “On the Street Where You Live (君住む街で) ”
アラン・ジェイ・ライナー作詞、フレデリック・ロウ作曲、1956年のミュージカル「マイ・フェア・レディ」に使われました。
ベースソロのなんとメロディアスなこと!
ベースソロが大好きな私なんですが、歌心にあふれ、感激するようなソロを弾いてくれるベーシストはそんなに多くはありません。
ジョージ・ムラーツは1944年チェコの生まれで、若くしてジャズベーシストとして頭角を現し、オスカー・ピーターソン、トミー・フラナガンなど重鎮との華々しい共演歴を持ちチェコの大統領から勲章を受けています。いや本当に勲章モノの演奏です。チェコは弦楽器がとても盛んな国で、ムラーツは幼い頃からバイオリンを習っていたそうです。(ジョージ・ムラーツ ウィキペディア日本語版2016年7月24日 (日) 22:04UTCの版より抜粋)
私は1度だけ、2006年に彼の演奏を生で聴いたことがあるのですが (ヘレン・メリルと来日)、バックでもソロでも常に美しい音で最高にセンスの良いフレーズを聴かせてくれて、本当に夢心地でした。
5. “The Night has a Thousand Eyes (夜は千の目を持つ) ”
1948年の映画のために、Jerry Brainin(ジェリー・ブレイニン)によって作られた曲。ムラーツのベースソロもヘインズのドラムソロもしっかり楽しめるアップテンポの1曲。
ゆったりとした流れのメロディなんですが、この曲、リズムはコロコロ変わるのですね。
イントロとテーマの最初の8小節はアフロキューバンというラテンのリズム、次の8小節は4ビート、これを2回繰り返した後は、8小節4ビートでテーマが終わります。続くピアノソロもテーマどおりにリズムを変えながらアドリブをします。
いやいや、そのアフロは関係ないし!
で、この曲はコルトレーンの名演が有名です。一応ご紹介。
コルトレーンファンの皆様ごめんなさい。
私は小曽根バージョンの方が好きです。
6.“My One and Only Love (マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ) ”
なんと美しいバラードでしょうか。ガイ・ウッド作曲、ロバート・メリン作詞。
この曲のムラーツのベースソロは格別です。
ひとつひとつのフレーズが心にしみます。私のためにそばでこんな風に弾いてもらえるなら、私はいくら払ってもいい(いくら払ってもムリ)。そして小曽根のソロは、フレーズの音の選び方ももちろんなのですが、ダイナミクス、タッチ、アクセント、すべてが、まさにそれ以外に考えられないというほど精緻です。
“O’grande Amor” ジョビンの名曲が胸に迫る!
7. “O’grande Amor (オ・グランデ・アモール) ”
私は、このアルバムの中でこの曲が一番好き。
作曲はアントニオ・カルロス・ジョビン。
ジョビンを愛するジャズの音楽家はたくさんいますね。
そして実際、ジョビンの曲はその多くがジャズのスタンダードになっています。この小曽根のバージョンは本場のボサノバのようなお昼寝向きのゆったりムードではなく、激しいリズムで畳み掛けてきて、寝ていても起きるくらいです。
特に、ヘインズのフィルインは最高! どう叩いたらそんなに鋭い良い音が出るのか不思議なくらいのリムショットが大好きです。
テーマの中ごろ、演奏時間で言うと33~34秒ですが、もうかっこよすぎて倒れます。
ベースソロは、ベースでこんなに美しいソロを弾いたらメロディ楽器は形無しって思いますが、小曽根だから大丈夫です。でもムラーツがこんなに名演を聴かせてくれるのは、いかに彼が本気でしかも良い気分かということを証明しているんじゃないでしょうか? 25歳の小曽根真に惚れていると思います。
ピアノソロも短いですが本当にドラマチックでこの曲にピッタリです。またこのイントロとエンディングの素晴らしいこと。このイントロとエンディングはこの曲にお決まりのパターンのようですが、小曽根はこれをゲイリー・バートンに習ったと言っていました。
8. “Tangerine (タンジェリン) ”
1941年にビクター・シャージンガーが書いた曲です。
アップテンポで疾走感抜群でわくわくします。
ピアノもベースもドラムも、一糸乱れず、ほんの少しのずれもヨレもなく、見事に揃いに揃っていて、なおかつソロもそれは魅力的です。
ピアノソロは、次から次へ繰り出されるフレーズが全く迷いなく力強くて、驚かされます。こんなに早いと左手なんてバッキングもワンパターンじゃないのかと思いきや、全く違って右手のフレーズに完全にマッチした、効果的な動きをしていて、時々両手でユニゾンしたりしています。驚愕です。
後半のピアノとドラムの8barsは、ドラムソロが非常に素晴らしい。よく聴くと、直前に弾いた小曽根のアドリブのリズムと、どこか似ていると思うのですが気のせいでしょうか。ヘインズがいかに小曽根の演奏をしっかりと聴いているか、バンドとしての調和を大切にしているか、よくわかります。そして歌心にあふれ、数多く叩けるのを自慢するような曲芸的なアドリブとは別世界の、非常に音楽的なソロです。特に最後のヘインズのソロは同じフレーズの繰り返しなのに、曲に合っていてなんとかっこいいことか。
凄すぎて目が飛び出ました。この曲の他の人の演奏をいろいろ聴いてみましたが、こんなに早いのは見当たりません。でも私は、この“Tangerine”を何度も聴きすぎて、遅いバージョンが物足りないです。
“Spring is Here”は1+1+1=100 のアルバム
このアルバムは最高の技術を持った3人が、心から楽しんで熱い思いで音楽をしたら、1+1+1が3じゃなくて100くらいになっちゃった、というアルバムだと私は思っています。今の小曽根がこのメンバーでやるとどうなるのか、ぜひとも聴いてみたいです。
小曽根真はバークリーで首席の天才だけど大阪弁の気さくな人
一応、小曽根真という人について説明しますと、1961年生まれで神戸出身。私は1度だけお話したことがあるのですが、素顔の小曽根さんは関西弁で、演奏している時の鋭い雰囲気とは違ってとってもフランクで、ちょっとびっくりします。
お父上はジャズの音楽家(ピアノ・オルガン)、幼少期よりピアノとオルガンに親しみ、バークリー音楽大の作・編曲科を首席で卒業し、ビブラフォンの第一人者ゲイリー・バートンのツアーに参加。1983年に日本人で初めて米コロンビア/CBSレコードと契約を交わしました。
その後、小曽根は自身のトリオを結成し世界をまたにかけ活躍を続けています。2004年にはバートンとのデュオ・アルバム “Virtuosi” でグラミー賞ノミネート。同年、日本を代表する音楽家を集めたビッグバンド “No Name Horses” を結成し、現在でもツアーやアルバム制作を行っています。
また近年はクラッシックの分野での活躍も目覚ましく、各国の交響楽団から共演依頼を受け、2014年にはニューヨーク・フィルハーモニックのアジアツアーのソリストに抜擢されました。(小曽根真 ウィキペディア 日本語版 2018年4月28日 (土) 08:29UTCの版より抜粋)
2017年には恩師ゲーリー・バートンの引退ツアーをデュオで行い、バートンの音楽人生の最終章をともに飾り、そして2018年4月には 紫綬褒章も受けています。
とにかく、小曽根は、私が聴いたことのあるピアニストの中で、間違いなく最高のピアニストの1人です。そして、残念なお知らせがひとつ。このアルバムが最高級のジャズアルバムであることは確かですが、現在の小曽根真はもっと上手いです。信じられないくらいです。でも、最近はこういうスタンダードばかりを演奏する、トリオのアルバムは作ってないんですよね。オリジナルが多くて、それもとても難解。
難解な曲って何回聞いても難解。
失礼。
なので、やっぱり私はこれが一番。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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