方向音痴な女のひとり旅!名古屋→東京ブルーノート編(2)|ゴニョ研

2018年3月8日笑える小話と家族のエッセイ

浪速商店街と弁天様と海野さん

さあ、帰らねば。
ひとり旅は知らない人との出会いもあって楽しいけれど、やはり乗換などは緊張する。
酔った身で、ホテルまでちゃんとたどり着けるか不安だ。

クロークで荷物を受け取り整理し、コートを着る。
薄暗い照明、ジャズのBGM、着飾った大人たちが歓談する、超おしゃれなロビー。
一方わたしは、クロークのカウンターに旅行鞄の中から出したものを広げ、財布やらポーチやらを出したりしまったりし続けていて、そこだけ浪速の商店街。

自分の手際の悪さに泣きそうだが、もういい。
さあ、本当に帰ろう。

でも出口どっちだっけ?

15年勤めた病院の構造もよくわかっていなかった私。
今日初めて来た場所の構造が覚えられるわけがない。
ここかと思う階段を上って行こうとしたら、上から男性が下りてくる。
ということは、これはきっと出口ではないな、と引き返した。
おりてきた男性をふと見ると、なんと海野さんである。

ガッツ
私、大ファンなんです!握手してください!

浪速の商店街万歳! よくやった、私!!

大きな温かい手。
夢心地だ。

自分が何を話したのか、よく覚えていないが、素晴らしい演奏でしたとか何とか言ったような気がする。

海野さん
そんな風にねえ、言ってもらえてね、とってもうれしい。ロイがね、世界中にファンがいてね、ロイのおかげでいろんな所に連れてってもらえるしね。

ガッツ
海野さんも世界中にファンがいるでしょう?

海野さん
いや、僕はね、小さい頃から、ただ好きなことをずっとやってきただけなのに、なんだか、いろんな方と縁があってね、つながることができてね。

とても穏やかで淡々としている。どっか空気が抜けてんじゃないかというくらい、圧力がない話し方だ。
さっきまで、演奏曲目が事前に決まっていないロイのバンドで、バンドの音に野生動物のように反応して、絶え間なく印象的なフレーズを叩き出していた情熱的な彼からは、全く想像できないホンワカムード。
海野さんは、ロビーで待つ音楽評論家氏をお待たせして、しばし私と話してくださる。

海野さんが小学生の時にお父様とブルーノート東京に来て、アート・ブレーキーに頭をなでられたという話を私が持ち出すと、それはここではなく、移転する前の場所だそうである。
モンティ・アレキサンダーと3日間一緒のホテルだったことがあるけれど、本当に優しくてよい人だとか、常にホンワカした口調で話してくださった。