For You featuring Tadataka Unno・鈴木良雄トリオ!これぞジャズ | ゴニョ研

2018年7月24日ジャズおすすめ


右側で眼鏡をかけてにっこりしてらっしゃるのが海野雅威(うんの ただたか)さん。

今回ご紹介するアルバムの収録当時は、海野さんは鈴木良雄トリオのピアニストでした。その後、NYへ拠点を移され、ロイ・ハーグローヴ・クインテットのメンバーとして、今や世界を飛び回るピアニストです。

今回は、2007年にONEレーベルからリリースされ、海野さんが思いっきりフィーチャーされた、鈴木良雄トリオのアルバム、“For You featuring Tadataka Unno" をご紹介します。
このアルバムは私の大切な愛聴盤。数日聴かないと、ものすごく聴きたくなります。

海野雅威(うんのただたか)さんの経歴やアルバムについては、海野雅威の情報集結!ライブ・アルバム・お宝動画・逸話等一覧!試聴付を是非ご覧ください。

海野雅威の魅力満載! For You featuring Tadataka Unno

ではさっそく音を聴いていただきましょう。

鈴木良雄トリオ
パーソネル

  • 海野雅威(Pf.)
  • 鈴木良雄(B)
  • Cecil Monroe(セシル・モンロー)(Drs)

プロデュース:鈴木良雄、増尾好秋
2006年6月NYC、ザ・スタジオにて録音
Released: August 08, 2007

愚かな私

アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリッカスが作曲。1962年にミュージカルの中でアンソニー・ニューリー自身が歌いました。が、この曲を広めたのはサミー・デイビス・ジュニアで、彼の歌でグラミー賞(最優秀歌曲賞)も獲得しました。

サミーのカバーも、とてもドラマチックな熱唱です。

海野さんのピアノソロのイントロも、ドラマチックでもの悲しい。
それがテーマになると、打って変わってとても軽快で最高にスィンギーな演奏になる。こ
の転換が、私は大のお気に入り。

ベースでメロディが演奏されるテーマも、なんとメロディアスで味わい深いのでしょう。
ベースの重たい弦をものともしない音の粒立ち。
ピアノソロ、ベースソロも聴きごたえがあり、後テーマの、エンディングへ向けての盛り上がりは鳥肌が立つくらいゾクゾクします。

Soon

ガーシュイン兄弟の作品です。本当にこのアルバムの選曲は見事。肩が凝らない、親しみやすい、ノリがいい、でも奥が深いという曲をよくぞここまで集めてきたもんだと思います。アレンジも良いんでしょうが。

そして、この曲に限らないのですが、海野さんのアドリブは聴いていて疲れることがないんです。
仕事のBGMで流していると、「しごと頑張ってね」と言ってくれるよう。

スピーカーの前に正座して聞耳を立てている時は、「ここがいいとこだよ、さあいくよ」と聴きどころを教えてくれるようです。
そこで一層聞耳をたてると、絶対に期待以上の驚きがあるのです。
このアルバムの曲はどれも、ものすごくオーソドックスなスタイルです。
それなのに新鮮で、こんなジャズあったかなと思わされる要因のひとつは、こんな風に聞き手に寄り添う所なんでしょう。

恋に恋して

おなじみの名コンビ、リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートが書きました。ロリンズやヘレン・メリルなどの名演がありますね。

この爽快なアップテンポが素晴らしいです。
リチャード・ロジャースは海野さんの好きな作曲家の一人。
この曲は海野さんとベースの吉田豊さんのデュオアルバムDANROにも収録されています。

このアルバムの「恋に恋して」は4分56秒の演奏時間があっという間。
ピアノソロでは奇をてらわず、これ見よがしな早いフレーズの連続など全くないのに、ワクワクしながら聴き続けられます。そして、どんなフレーズを弾いても音が美しい

その表現は常に厳密にコントロールされています。
これはこのトリオ全員にいえることですね。
ドラムのセシル・モンローさんも同様。
ドラムソロでの長いロールの、粒ぞろいで美しいこと!
思わず固唾をのんで聴いてしまいます。
そして胸のすくエンディング。
圧巻です。

これに関して、鈴木良雄さんのブログの中に、思わず膝を叩くようなエピソードがありました。
鈴木良雄さんといえば、あのジャズメッセンジャーズで活動されていたことで有名です。
そのジャズメッセンジャーズでのツアーの回想録にこんな記述がありました。
ちょっと長いですが、鈴木さん、文章も本当に上手いなあと思うので、読んで頂きたいんです。

アートのドラムを聴いているとやっぱりその体の底、血にあるアフリカが色濃く聞こえてきます。一度始まったら決して止まる事のないあの熱いビート、きれいでしかも力強い太くて男らしいドラムの音、もう毎日僕はアートの隣でうなされた様にベースを弾いていました。
まず音楽は何よりも音色が一番、綺麗な音色抜きでは何も始まらないという事を徹底的に叩き込まれました。

「ベーシスト鈴木良雄オフィシャルサイト」の「(7)メッセンジャーズのツアー」の中の「ニューヨークの思い出」というタイトル文章の中から引用しましたが、オフィシャルサイトがリニューアルされ、該当部分が削除されてしまいました。

ドラムのセシル・モンローさんもピアノの海野雅威さんも、鈴木さんが演奏を聴いてスカウトした演奏家。「綺麗な音色抜きでは何も始まらない」というポリシーに見事にマッチした2人。彼らを見つけたときの鈴木さんの気持ちを想像すると、私までドキドキしてしまいます。

フォー・ユー(For You)

この曲は鈴木良雄さんのオリジナルです。
なんと美しい曲なんでしょう。
このテーマが大好きで、聴くたび胸がキュンとします。
美しいメロディと自然なハーモニー。
ピアノとベースのデュオでの丁寧な演奏は心に染み込むようです。
ベースソロも、早いフレーズはなく、ずっとメロディアスなフレーズが続きますが、それがむしろこの曲の良さをいっそう際立たせています。

ルーレット(Roulette)

この曲も鈴木良雄さんのオリジナルです。
彼はアメリカでジャズメッセンジャーズを脱退したのち、クラッシックの作曲の勉強をしました。
そうしてクラッシックの作曲技法と、日本人としての特性と、ジャズとが融合して、美しい曲が生まれるようになったわけです。

ウィッチクラフト(Witchcraft)

作詞キャロリン・レイ、作曲サイ・コールマン。
フランク・シナトラが歌いヒットしました。
この曲も、軽快でさわやか。
ほんと、ジャズって最高!

サマー・ナイト(Summer Night)

アル・ダビンとハリー・ウォーレンの曲。
ベースで始まるイントロがかっこいいワルツのアレンジです。
この曲の聴きどころはなんといってもベースソロ。
歌うようなベースソロが素晴らしい。

トリステ(Triste)

アントニオ・カルロス・ジョビンの作曲。
ちょっとゆるめのボサノバのノリが、本当に心地よいけれど、緻密な3人組は飽くまでピタッと縦の線がそろっています。

アイ・シュッド・ケアー(I Should Care)

サミー・カーン作詞、アクセル・ストーダールとポール・ウェストン作曲。
またもや、ピアノソロでのドラマチックなイントロです。
今(2018年7月22日)は、イタリアでロイ・ハーグローヴ・クインテットの一員として演奏している海野さん。今年の3月に私はロイのバンドの日本公演を聴きました。
その時は、エンディングで長いソロがありました。
神々しいほど美しく、ドラマチックな演奏でした。
この公演のライブレポートを、ロイ・ハーグローヴ・クインテットの海野雅威!BN東京に書いておりますので、よろしかったら読んでください。

ダーン・ザット・ドリーム(Darn That Dream)

Eddie DeLange作詞、ジミー・ヴァン・ヒューゼン作曲。
邦題だと「いやな夢」らしいですが、詞の内容は、

夢の中ではあなたは私を愛していると言って強く抱きしめてくれる。
でも目覚めるとあなたはいない。
なんて切ない夢なの?

っていうような、ラブソングでござんす。
ジミー・ヴァン・ヒューゼンは、スタンダードのバラードの名曲「ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス」の作曲者でもありますね。
アルバムの最後を飾るこの曲は、海野さんのソロです。
ソロだし、バラードだから、テンポルバート(自由なテンポ)で、ちょっと焦らしたり、走ったり、手練手管で女心をもてあそびます。

もうほんとに、この色男!

…失礼しました。

ああ、ピアノってこんなにきれいな音だったかしら?
高い音から低い音まで、なんて繊細で魅力的なのかしらって思います。
いろんなピアニストの演奏を聴きますが、海野さんほどピアノという楽器の特色を生かした演奏をする人は少ないと思うのです。
どの音域をどう響かすか、タッチは、ペダルの使い方は、など本当に心得ている。

そういえば、海野さんはブログの中で、この “For You" の録音スタジオやピアノについても触れています。

リラックスした楽しいレコーディングでした。というのも、このスタジオのオーナーであり、チンさんの親友でもあり、そして素晴らしいギタリストの増尾さんのおかげです。増尾さんとチンさんとの和やかな雰囲気の中でのレコーディングは本当に楽しかったです。

ここのピアノは古いスタンウェイで、特に高音が柔らかな甘い音色がします。とても好きなピアノでした。ちなみに、健吾さんの「Divine」はこのスタジオでレコーディングしたとの事なので、健吾さんのDivineを弾いてみたところ、やはりあの音がして嬉しくなりました♪

「The Studio」にて、海野雅威の気まますぎるdiary、2006-08-01

「チンさん」は鈴木良雄さんの愛称、「増尾さん」はサザエさんの旦那さんではなく、このアルバムの共同プロデューサーで、ギタリストの 増尾好秋さんです。
「健吾さん」とはベーシストの中村健吾さん。
“Divine" は、健吾さんの初リーダーアルバムのタイトル曲です。

“Divine~prologue"(ディヴァイン~プロローグ)
中村健吾

Release Date: 2001.02.25

(クリックしてiTunesにて無料試聴可能)

海野さんは、NY在住だった健吾さんが日本で公演する時、よくピアノを弾いていました。
歌心あふれたフレーズを、温かく深く美しい音色で演奏する健吾さんは、海野さんの憧れであったようです。
健吾さんから自分のバンドに入ってほしいと電話をもらった時に、とてもうれしかったとブログに書いてらっしゃいます。

鈴木良雄というジャズベーシスト

順番が後になりましたが、鈴木良雄さんについてもご紹介しておきましょう。
私の好きなベーシストベスト10に間違いなく入る名ベーシストです。

1946年長野県木曽福島生まれ。音楽家の両親と“鈴木メソッド”創始者の伯父鈴木鎮一の下、幼少の頃からバイオリン・ピアノに親しむ。

早稲田大学文学部卒。早大モダンジャズ研究会ではピアノを担当。卒業後渡辺貞夫に師事。彼のバンドへの誘いもあってベースに転向。1969年~73年の間、渡辺貞夫、菊池雅章のグループで活躍。73年渡米し、74年スタン・ゲッツ・グループ75年~76年アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのレギュラーベーシストとして活躍。

85年帰国後、自己のグループMATSURI、93年にEAST BOUNCEを結成。

<中略>

2008年2月に若者たちとのバンドGENERATION GAPを結成。2015年3月にファーストアルバム「Generation Gap」をリリース。同3月22日、モーション・ブルー・ヨコハマで和太鼓と共にCD発売記念ライブを開催。

2016年竹書房よりジャズ入門書「人生が変わる55のジャズ入門」を出版、大好評を得る。

‘チンさん’のニックネームでミュージシャン・ファンから親しまれ、日本ジャズ界のリーダー的存在である。

ジャズベーシスト鈴木良雄オフィシャルサイト、Biography

72歳で、自己の音楽の探求に、若手の育成に、出版に、勢力的に活動されていて素晴らしい。
ダンディで颯爽(さっそう)として、そして本当にセクシーな演奏。
あこがれですぅ。

…失礼しました。

なんと、あのタモリも創設者?レーベルONE

実はこのアルバムは、「ONE」という音楽レーベルから出された最初のアルバムなんですが、このレーベルの創設者がびっくりのメンバーなんですよ。

  • 鈴木良雄
  • 伊藤潔
  • タモリ
  • 五野洋

伊藤潔さんは、「渡辺貞夫、増尾好秋、笠井紀美子、鈴木良雄」、そして「Gary Peacock、Nancy Wilson, Steve Gadd」 などのプロデュースをした凄腕(すごうで)プロデューサー。
五野洋さんは「日本グラモフォン(現ユニバーサルミュージック)で、キース・ジャレット、ハービー・ハンコック、カサンドラ・ウィルソン」などを担当し、「2004年55歳で退社し、ジャズ・インディーズ・レーベル、55Recordsを設立。2005年にリリースしたイタリア人シンガー、ロバータ・ガンバリーニのデビュー作『イージー・トゥ・ラヴ』がグラミー賞にノミネートされる」というこれまたスーパープロデューサー。
※「」は以下より引用。誰よりもジャズを愛する4人の男が設立したまったく新しいレーベル誕生!

この4人のレーベルの創設宣言がとっても素敵なんですよ。

“音楽とは古いとか、新しいとかいうことではなく、
ただいい音楽家、悪い音楽家、と言うことだ。”
これはデューク・エリントンの有名な言葉です。
この“One”レーベルのパートナーたちも音楽にたずわさって四十年近くになります。
私達はこれまでそれぞれの音楽を発表したり、制作してきました。
これからは、エリントンの言葉を私たちのヴィジョンとして力を合わせ一つ(One)になり、まず私達が楽しめる素敵な音楽を制作して、
音楽ファンの皆様にも楽しんで頂ければと願っております。

誰よりもジャズを愛する4人の男が設立したまったく新しいレーベル誕生!
こんな素敵なレーベル! 作ってくださって、ありがとうございます。

ジャズ初心者からジャズ通まで楽しめるようなアルバムを作るって、本当に難しいことだろうと思います。
こんなアルバム、なかなかない!!

ジャズ初心者の方にうってつけの曲を集めた記事は、こんなのもありますよ。


ジャズ初心者向け・ジャズミュージシャンが作曲した最高のメロディ

海野雅威の背中を押したアルバム

そして、このアルバム、海野さんにとっても記念すべきアルバムだったのですよね。
そう、海野さんにとっては初めてのNYでのレコーディングだったのです。
そしてこの時、「JVC ジャズフェスティバルNYの一環で、マンハッタンの『Sweet Rhythm』に鈴木良雄グループのメンバーとして出演し、好評を呼んだ」(「」は以下より引用、Tadataka Unno “My Romace" ライナーノーツ、2008年3月中川ヨウ著)のですね。
この翌年の2007年、海野さんは再びレコーディングでNYを訪れます。

この時録音されたのが、2枚目のリーダー・アルバム“My Romance ~ The first sketch of Tadataka Unno" です。

この2枚のアルバムのNYでの録音が、彼をニューヨークへ導いたのだということは、”COURRIER” の記事ニューヨークで最も有名な日本人ジャズピアニスト・海野雅威が語る「世界で、ジャズマンとして生きるということ」で知りました。

そして、私はもう一つ、これも言いたい。
海野さんを高く評価している日本人ジャズメンはたくさんいるけれど、なんといっても、長年ともに演奏している鈴木良雄さんと中村健吾さんの影響は大きいと思うのです。
鈴木さんはNYに長く住みジャズメッセンジャーズで活躍され、中村さんはバークリー卒業後NYに残り、ウィントン・マルサリスに認められ彼のバンドの一員となった。きっと海野さんのニューヨーク移住を、このお二人が支えたに違いありません。

海野さんのソロアルバムは全てアルバム1枚1記事でレビューを書いています。

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海野さんがNYへ行ってからサイドマンとして参加したアルバムもご紹介しています。

サイドマンとしての海野雅威・NYのジャズシーンの今を聴く

いやー。長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。