ウィントン・マルサリス スタンダードタイム Vol.3|ゴニョ研

2018年1月4日ジャズおすすめ

目次

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ジャズの先達への敬意があふれる Marsalis 親子の演奏を堪能しよう

1曲目 “In The Court Of King Oliver (イン・ザ・コート・オブ・キング・オリバー) ”

試聴で聴けないのが残念ですが、イントロのベースで、もう嬉しくなってしまいます。ベースはReginald Veal (レジナルド・ヴィール) 。骨太の味わい深い音色で強力なグルーブを生み出すけれど、無駄なことはせず、きっちりと役割を果たすベーシストです。1980年代後半にエリス・マルサリスとツアーをしていて、その後にウィントンのグループにいました。

トランペットにピッタリのメロディで素晴らしいスタンダードだけど知らないなあと思って、ググっても全く情報が得られず、よく見たらウィントンの作曲でした。

曲名に出てくるキング・オリヴァーは、1885年生まれのコルネット(トランペットよりも軟らかい音を出す金管楽器)奏者です。サッチモの愛称で知られ、 “What a Wonderful World (この素晴らしき世界) ” など、誰でも、その親しみやすい「だみ声」の歌唱を一度は耳にしたことがある歌手兼トランペット奏者、ルイ・アームストロングの、師でした。オリヴァーは、ミュートという、管楽器に使う弱音器を使用した演奏法を開拓し、その演奏スタイルを詳細に楽譜に記しました。ルイ・アームストロングをして「もしジョー・オリヴァーがいなかったら、今日のジャズはなかっただろう」と言わしめた人物です。ミュートは、管楽器のベル(朝顔の花のように広がった部分)に装着し、より金属的な音にしたり、こもったような暖かみのある音にしたり、装着しつつ動かすことで「ワウワウ」というような音にしたり、音色に変化をもたらすものです。キング・オリヴァーは山高帽など、さまざまなものをベルに突っ込んでみたとのことです。このアルバムの中でウィントンは、あらゆるミュートを使い分け、驚くほどさまざまな音を出しています。

この曲は、サッチモが「パパ・ジョー」と呼んだキング・オリヴァーへの憧憬をこめて、ウィントンが書き、演奏した曲なのです。

キング・オリヴァーとサッチモが組んでいたバンドの演奏をご紹介した記事ジャズの起源・楽しく聴くだけでサルでも分かる!もぜひ!

2曲目 “Never Let Me Go (ネバー・レット・ミー・ゴー) ”

1956年のアメリカ映画 “スカーレット・アワー” のためにジェイ・リビングストンレイ・エバンスが作った曲でナット・キング・コールが歌いました。そして、ジャズ・クラッシック共に評価を得ているピアニスト、キース・ジャレットの名ライブ盤 “Standards Vol.2 ” にも収録されています。これも非常に素晴らしい演奏ですが、かなり長いアドリブがあり、ちょっと肩がこるのでご紹介は控えます。

ぜひトランペットの音色の違いに注意して、1曲目と2曲目を聴き比べてみてください。ちょっと鋭い1曲目に比べると2曲目の冒頭は優しいささやきのよう。ピアノとのデュオで語りかけるように演奏されるこの曲は、「私を離さないで」というラブソング。アドリブはなく、ウィントンはテーマだけを、1音1音をいつくしむように丁寧に吹いています。私だったら絶対にウィントンを離さないですが、逃げられそうですね。

3曲目 “Street Of Dreams (ストリート・オブ・ドリームス) ”

テンポ・ルバート(自由にテンポを変えて)での、ピアノと柔らかな音色のトランペットでのロマンチックな演奏、これがイントロではなくテーマです。ブレイクの後ピアノの印象的なピックアップ(リズム楽器の演奏がない部分をソロ楽器が演奏すること)からインテンポ(一定のテンポ)になってドラムとベースが加わり、エリスのアドリブに突入。次にウィントンのアドリブ。両者とも、非常に抑制した、厳選した音だけを選んで演奏しているアドリブです。その後にまたテーマをエリスが弾いて終わります。このエリスのテーマでの演奏の、微妙なノリの遅さ、もたつき加減が最高です。

ジャズのスタンダードになっている作品が多いビクター・ヤングの作曲です。

4曲目 “Where or When (いつかどこかで) ”

1900年代前半に非常に多くのミュージカルの曲を作り、その多くがジャズのスタンダードになっている、作曲家リチャード・ロジャースと作詞家ロレンツ・ハートのコンビによる曲です。ドラムもベースも入ってのバラードです。これもアドリブはなくテーマだけ。ウィントンは最後のほうでの高音域の音を、うっとりするような美しい音色で吹いています。

トランペットは、3つのピストンの押さえ方と吹き方とで音の高さを変えるので、早い呼気を必要とする高音域は、音を出すだけでも非常に難しく、音を持続させるのはさらに難しいのだそうです。だから、トランペットのアドリブでは、あまり音楽的な必然性がなくても、高い音を長く持続させて吹くだけで拍手喝采(かっさい)が起こったりするのですね。
ここでのウィントンは、まさに「ここしかない」という所で、高音の見事なロングトーンを美しすぎる音色で吹いています。心から拍手喝采です。
そういえばピアノもいたね、というくらい、バックでトランペットを引き立たせることだけに専念して、常に美しいハーモニーを様々な奏法で奏でているエリスにも感服します。

5曲目 “Bona and Paul (ボナ・アンド・ポウル) ”

これもウィントンの作曲です。異国で夕暮れに小舟に揺られているような雰囲気の曲です。1分40秒でテーマだけ。この曲、基本5拍子なんですが、途中で拍子が変わっているところも何か所かあり、演奏者にとっては難しい。そりゃ、このバンドは、そんなこと、モノともしない人ばかりで超余裕ですね。

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