ウィントン・マルサリス スタンダードタイム Vol.3|ゴニョ研

2018年1月4日ジャズおすすめ

目次

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Herlin Riley (ハーレン・ライリー)の音への飽くなき探求に脱帽!!

18曲目 “Taking A Chance on Love (恋のチャンスを) ”

1940年のブロードウェイミュージカルの中で紹介された曲で、 ジョン・ラ・トーシュとテッド・フェッターが作詞し、<bヴァーノン・デューク< b="">が作曲しました。
テーマしか吹いていないのにウィントンの演奏の素晴らしさには舌を巻きます。</bヴァーノン・デューク<>

けれど、ここで、私が最も感動したのはドラム。ドラマーはハーレン・ライリー(Herlin Riley)です。最初のテーマの演奏のバックでの、コンガの音とも聞こえるような、ポコポコした打楽器の音は、どうやって出しているのでしょう? 試聴では冒頭の部分でわずかに聴くことができます。明らかにスティック(木のバチ)は使ってない。手で叩いているとして、どこを? ちょっとドラムをかじっている夫に聞いてみたら、おそらくスネアドラムというドラマーの真ん前に置く太鼓、この太鼓の裏についている響き線を外して、そのドラムを手でたたいているのだろうとのこと。なんてこの曲にピッタリな心地よい音でしょう。また、後半のアドリブ後のテーマで、サビの後のAメロのバックでも、今度はもっと激しく、この音が聞こえます。

ジャズミュージシャンは良い音楽のためなら既成概念を打ち破っていろんなことをします。昔、小曽根真のライブで、名ドラマーのクラレンス・ペンは紙を叩いていたし、ウィントンに見いだされた天才トランぺッター、ロイ・ハーグローブのバンドのピアニストだった、ジェラルド・クレイトン(Gerald Clayton)は、2007年のこのバンドのライブ動画の中で、ピアノに手を突っ込んで左手で弦を押さえながら右手で鍵盤をたたいていました。片手分の演奏なのに、なんと存在感のある素晴らしい演奏かと度肝を抜かれました。コルネットに山高帽などを突っ込んでみたパパ・ジョーのように、彼らの中にある音のイメージを真摯に追求した結果なのでしょう。ジャズのこういう所が、私は興奮するくらい大好きです。

19曲目 “I Gotta Right to Sing The Blues (ブルースを歌おう) ”

1932年のミュージカル “Earl Carroll’s Vanities ” の中の曲でハロルド・アーレンが曲を書き、テッド・コーラー(Ted Koehler)が作詞しています。1933年にルイ・アームストロングが歌とトランペットで録音しています。

私にはウィントンは、このアームストロングのスタイル、つまりトランペットの奏法やアドリブのフレーズの作り方などを意識的に摸して、それを学ぼうとしているのではないかと思えますが、どうでしょう? とにかくウィントンは非常に勉強熱心で過去のジャズのあらゆるスタイルに精通しています。彼が音楽監督を務めるジャズ・アット・リンカーンセンター(JALC)の楽団員の入団審査は、受験者に過去のあらゆるスタイルでの演奏を義務付けているくらいですから。そして、彼はジャズの伝統から学び、全く新しい自分のジャズを生み出そうとしているのではないかと、私は思うのです。

で、ついでなんですが、上のサッチモの録音も、最高ですよ。なぜか彼の作品を聴くと、暖かい気持ちになりますね。極上の家庭料理のような音楽です。サッチモは小さい頃に町のお祭りではしゃいで発砲して少年院送りになり、その少年院のブラスバンドでコルネットを演奏するようになったのが、楽器との出会いなのだとか。それを夫に話したら、開口一番、

「俺もちょっと少年院に行ってくるわ」

と。

さっさと少年院に行け!!

20曲目 “In The Wee Small Hours of The Mornig (イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オブ・ザ・モーニング) ”

1955年にデビッド・マンが作曲した人気曲で、ボブ・ヒリアードが詞を書きました。フランク・シナトラのアルバム“In the Wee Small Hours ”のタイトルトラックだったようです。ピアノとのデュオがピッタリの静かな曲。ウィントンはこの美しく切ないメロディを忠実に再現し、エリスはハーモニーをきっちりと響かせるだけで、全く余計なことはしないのです。

21曲目 “It’s Too Late Now (イッツ・トゥ・レイト・ナウ) ”

1951年に公開されたミュージカルの中の曲でバートン・レイン作曲、アラン・ジェイ・ラーナー作詞です。エリスのソロです。一人で演奏するのにアドリブも弾かず、派手なことは全くしない彼ですが、そのアレンジのアイデアの豊富さとセンスの良さ、特にリハーモナイズ(ハーモニーをつけかえること)の美しさ、イントロとエンディングの斬新さは目を見張るものがあります。「ジャズ=アドリブ」ではないと彼は言いたいのではないでしょうか? 大賛成です。

まだ書くのか?! と自分でも思います。いや、もうやめます。最後に2言だけ。

  1. この記事を書いて、ウィントンがどれほど素晴らしい音楽家かを再認識し、驚きを禁じえません。彼は、常に学び、実験し、課題を考察し、それを解決しようと、また学んで実験して…というサイクルを繰り返しているのですね。それが彼の音楽活動なのです。彼はもうすでに頂点ですが、天空を突き抜けて宇宙へ飛び出して、どこまで行くのか見届けたいです。
  2. 実は日本人でもウィントンに見初められた音楽家がいるのですよ。ベーシスト中村健吾はウィントンのリンカーンセンター・ジャズオーケストラの一員でしたし、彼のカルテットのメンバーとしてクリントン元大統領主催のサミットでも共演しています。私が名古屋の小さなライブハウスで彼の演奏を聴いたのは、2001年で彼のリーダーアルバムのリリース直後でしたが、このウィントンのアルバムのベーシスト、レジナルドに負けず劣らずの骨太の音で、本当に存在感のあるベースでした。日本のジャズミュージシャンも素晴らしい人がたくさんいますね。

クリスマスソングはジャズ!定番曲をおしゃれな演奏ででは、ウィントンの ”Christmas Jazz Jam” をはじめ、クリスマスソングを最高のジャズで聴けるアルバムをたくさんご紹介しています。
よろしかったら、そちらもぜひ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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